問い合わせ対応のAI化で、コストと品質はどうなる?(後編)

コールセンターにおける問い合わせ対応の手段として、チャットボットを導入する企業が増えている。しかも、コールセンター以外への導入事例も増え、用途も広がっていると言う。チャットボットは本当に有効なのだろうか。そして、チャットボットを効果的に機能させていくための条件とは?
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応対品質で注目を集めるチャットボット

コールセンターでは、近年、問い合わせ対応のIT化が進んでいる。特にここ数年、問い合わせ対応の自動化に関する顧客からの要望が急激に増え、導入する企業が後を絶たない。

「センターの入電数を減らし、スタッフを減らしたいというニーズは以前から常にありました。その解決策として、問い合わせ対応の自動化、特にチャットボットがキーワードになり始めたのです」(SCSK ビジネスソリューション事業部門 AMO第一事業本部 ソリューション第三部 第三課長 稲田 徹)

チャットボットは、バーチャルのキャラクターが利用者の問い合わせに回答する仕組みだ。テキスト入力された問い合わせに対する回答を、データベースの中から自動的に選ぶ。チャットボットが優れているのは、リアルタイムでの対応が可能なことと、オペレーター(人)のコストを削減できることだ。

チャットボットを導入すれば、利用者はいつでもどこでも気軽に質問し、リアルタイムに回答を得られる。

オペレーターを雇う場合、小規模のセンターでも年間で数千万円のコストがかかる。その点、チャットボットは人手がかからず、しかも複数の問い合わせにリアルタイムで対応できる。センターの営業時間外でも対応可能で、オペレーターにつながるまで待たされることもない。

なかでもSCSKが提供するチャットボット「Desse(デッセ)」は、導入実績で他社に先行しており、製品化からすでに5年が経過、多くの運用実績を積んでいる。

聞き返し機能とスコアシステムが回答精度を支えるカギとなる

チャットボットの導入で懸案となるのは、オペレーター対応と同等、あるいはそれ以上の品質を担保できるかだ。いくらリアルタイムで対応できても、ユーザーが求める回答を得られなければ意味はない。

Desseが高く評価される理由がここにある。問い合わせに対する回答が、非常に的確なのだ。回答の高い精度を支えるのが、聞き返し機能だ。問い合わせが曖昧な場合、詳細を聞き返し、ユーザーとの会話の中で適切な回答を絞り込む。

例えば「会員制度について知りたい」という問い合わせは曖昧だ。制度に関する回答候補(データベースに蓄積)も複数あり、どれを回答すればよいか、わからない。そこでDesseが「会員制度の何を知りたいですか」と聞く。これが聞き返し機能である。

回答を絞り込む上で、独自のスコアシステムを使っているのもDesseの大きな強みである。昨今、ディープラーニングなど、流行のAI技術の採用をうたったチャットボットも増えている。しかし、最先端の技術だけに頼り過ぎると、回答が選ばれた理由を人がトレースできなくなる。また、新たな情報をチャットボットに学習させたとき、これまできちんと回答できていた質問にも答えられなくなる副作用が生じる。

Desseは最新のAIアルゴリズムと複数のスコアシステムを組み合わせることで、人の判断で質問に対する回答の優先度を操作できるようにしている。これが、高い回答精度を支えているのだ。

回答が「役立った」か「役に立たなかった」の結果がログに蓄積され、チャットボット管理者の判断でスコアが最適化される。

こうした取り組みの成果は、数字に表れている。Peach Aviation株式会社(以下、Peach)では、Desse導入直後にセンターへの入電数が半数以下となった。これは、チャットボットで的確な回答が得られたため、電話で問い合わせる必要がなくなった結果と言える。

この成果を受けて、Peachは、多言語に対応するチャットボットの導入を決めた。Peach就航地で用いられるすべての言語(日本語、英語、中国語(繁体・簡体)、広東語、韓国語、タイ語)での問い合わせに対応することで、世界各地で顧客満足度の向上につなげているのだ。

AIは稼働直後から進化がはじまる

Desseは進化する。厳密には、Desseの回答データベースを更新し続けることで、常に進化していく。チャットボットのように機械学習がベースとなるシステムでは、この点が重要だと稲田は言う。

例えば、航空券に関する問い合わせでは、航空券をチケットと呼ぶ人もいれば、ボーディングパスと呼ぶ人もいる。この場合、チャットボットがボーディングパスというキーワードを読み取れなければ、問い合わせに対応できない。Desseの運用フェーズでは、質問のバリエーションだけでなく、同じ意味を持つ言葉や、言い回しの違いなどをそのたびごとに増やし続ける。

「大切なのは、答えられなかったり、間違った回答をしたときの対応です。答えられなかった質問を追加する、質問を新たな回答とひも付けるなど修正はその都度行います。人によって問い合わせる文章は異なるものの、そのバリエーションは無限ではありません。実際に運用しながら、パターンを増やしていくことで、精度が高まるのです」(稲田)

Desse導入にあたっては、まず初期の回答候補を作成する。電話による問い合わせの音声データやログなどを参照しながら、よくある問い合わせとそれに対する回答の組み合わせを100〜200パターンほど用意するのだ。ここには、コールセンターの運用で蓄積してきたSCSKグループのノウハウが活きている。その後、運用しながら新たな質問や言い回しの例を増やしていくことで、回答の精度を高めることになる。

Peachでは、チャットボットの使い勝手についてユーザーにアンケートを取っている。当初、チャットボットが「役立った」と回答した人の割合は、「役に立たなかった」の割合を下回っていた。しかし、言い回しの追加と、その結果回答の精度が高まったことで、役立ったと答える人の数が大きく増えた。

回答の精度を高める取り組みは、さまざまな工夫によっても支えられている。一般に、FAQでは、HTMLで質問・回答を作成することが多く、追加や修正に専門知識が必要となる。しかし、Desseのデータベースは、Excelベースでの運用が基本だ。Excelのファイルを更新すれば、自動的にDesseのデータベースに情報が追加され、学習する。

そのため、ユーザーである企業自身が、質問・回答のパターンや言い回しを簡単に増やすことができる。導入して稼働させるだけでなく、稼働後にシステムを運用するSCSKグループならではの工夫と言えるだろう。

現在のITは、作って稼働させれば終わりでない。稼働させながら、成長させるスタンスが求められる。これは、SCSKの人工知能に対する取り組みでも同様だ。Desseの回答精度を高める仕組みには、そうしたスタンスが反映されているのだろう。

Desseの導入や運用を支える(左から、SCSK 稲田、SCSKサービスウェア 栗原、高橋、斎藤、寺内)

働き方改革の観点からも活用が広がるチャットボット

Desse活用の場面は、コールセンターに限らない。FAQのブラッシュアップ、VOC(Voice of Customer:顧客の声)の収集、社員向けサービスの充実など用途は広い。問い合わせ内容はログとして残るため、VOCを商品・サービスの品質向上に役立てたり、その分析結果を顧客との関係構築に役立てたりすることも可能だ。

サービスの対象を社内に向けて、社員による人事・総務への問い合わせ対応をボット化することもできる。たとえば、年末調整や育児休暇などの手続きがわからずに困る社員もいる。イントラネットなどに情報を載せても、探すのにひと苦労するのはFAQと同様だ。

そのような情報を回答候補として蓄積し、Desseが回答することで、社員は探す手間が、人事・総務系スタッフは対応する手間が減る。雑務にかかる時間を圧縮することで、社員はより付加価値の高い仕事ができるようになるだろう。

「今後、自動応答システムが進化を続けていくと、会話のキャッチボールが人間の行っているような、より自然な対話型へと進化していくでしょう。そこでは、この話題だとこんなことも聞いてみよう、といった“シナリオ型知識”と、その知識を簡単に習得できる仕組みが重要になるのです」(稲田)

SCSKでは、こうしたシナリオ型知識をさまざまな学習データから自動生成する特許を取得している。問い合わせ対応のコストダウンと生産性向上を両立させ、今後も進化を続けるDesse。どのような部署や場面で活用できるか、ぜひ考えてみてほしい。