三菱電機が法人向けのWebサイトにチャットボットを導入した狙いとは
膨大な情報へナビゲートするQAチューニングのポイント

膨大な情報へナビゲートするQAチューニングのポイント
三菱電機のFA(Factory Automation)システム事業では、シーケンサなどの制御機器から、サーボ、インバーターなどの駆動機器、産業用ロボットやレーザー加工機まで、実に幅広い製品を手がけている。製品の種類・数が非常に多く、Webサイトに掲載されている関連情報も膨大なため、ユーザーは必要な情報にたどり着くのが困難だった。三菱電機では、Webサイトでの情報検索の効率化、増加するWebサイトからの問い合わせ対応強化を行ってきたが、情報が見つからないという声が依然として多く、新たにチャットボットを導入した。BtoBにおけるチャットボットの利用はどのように進められたのだろうか。

製品数が膨大で、求める情報にたどり着けない

三菱電機は自社のFA製品について、開発・設計・製造・販売から、技術相談・トレーニング・納入後のアフターサービスまで一貫して手がけており、品質の高さと手厚いサポートで国内外から高い評価を得ている。

FA製品は一般に、デジタル機器や家電製品より製品寿命が長く、20年前の製品が今もなお活躍し続けているケースもある。そのため、ユーザーがリプレースを検討する際、製品仕様や設計の情報といった導入当時の資料が見つからずに困るケースも珍しくないという。

「導入時の設計情報が見つからないと、リプレースを検討されているお客さまはWebサイト上で必要な情報を探します。しかし、三菱電機が手がける製品は種類が非常に多く、Webサイトに掲載されている情報量も膨大であるため、お客さまは目当ての情報までたどり着けず、電話技術相談窓口へお問い合わせいただくケースが多いです」(三菱電機株式会社 名古屋製作所HMIシステム部 HMIソリューショングループ 専任 大槻 佳代子 氏)

三菱電機ではこれまでも、Webサイトの情報構造や導線の改善など、ユーザーが求める情報にたどり着きやすくする施策を行ってきた。しかし、ユーザーからは依然として「情報が見つけられない」という声が届いており、電話による問い合わせも減らなかった。

こうした現状を打開するための手段を考えるなか、浮かんだのがチャットボットを使うというアイデアだった。

「多様な業種でBtoC向けにチャットボットが導入され、活用の実績が増えていると聞いていました。そこで、私たちのようなBtoBの分野でも、チャットボットを活用し、お客さまが自己解決できるためのサービス提供ができないかと考えました」(三菱電機株式会社 FAシステム事業本部 FAシステム業務部 デジタルマーケティングセンター デジタルマーケティンググループ 専任 河野 志紀 氏)

(左から)
三菱電機株式会社FAシステム事業本部 FAシステム業務部 デジタルマーケティングセンター デジタルマーケティンググループ 千藤 ゆう子 氏
FAシステム事業本部 FAシステム業務部 デジタルマーケティングセンター デジタルマーケティンググループ 専任 河野 志紀 氏
名古屋製作所 HMIシステム部 HMIソリューショングループ 専任 大槻 佳代子 氏

三菱電機のFAサイトに最適なチャットボットを選定し、PoCを実施

チャットボットを選定する上で、重視したのが実績だった。多くのチャットボットの中から信頼できる利用実績がある製品に絞り込み、その中から選ばれたのがSCSKのAIチャットボット「Desse(デッセ)」だ。

「実績以外で重視したのはコストパフォーマンスです。Desseは利用料金だけでなく、AIチャットボットで必須となるデータ登録にかかる運用費を抑えられる点が魅力でした」(河野氏)

三菱電機はDesseの採用を決め、PoCプロジェクトを開始。環境構築や導入・運用支援はSCSKが担当。DesseのデータベースとなるQAシートの作成・運用は、以前から三菱電機の製品マニュアルや販促資料などを作成していたCDS株式会社が分担することになった。

PoCを進めたサービスは2つ。1つは、「製品情報を知りたい」「製品について学びたい」などのサイト訪問目的に応じて、お客さまが知りたい情報へ誘導する「FAサイトなび」。もう1つは、GOT(Graphic Operation Terminal)と呼ばれる表示器の情報に特化し、利用中の機種のシリーズ名や形名からリプレースに必要な情報へ誘導する「GOT置き換えなび」だった。

「製品の情報収集でWebサイトを訪れるお客さまは、困っている課題への『答え』を求めています。お客さまの求める正確な『答え』を提供するにはどのような題材がふさわしいか、と考えたとき、旧製品から新製品への置き換えであれば、探している情報に対する『答え』を絞り込みやすく、満足度を高めやすいと考え、PoC対象に選びました。また、『旧製品から新製品に置き換える』というお客さまのニーズは他の製品でも同様なので、横展開しやすいと考えました」(大槻氏)

サービスを構築する上で最も苦労したのは、「GOT置き換えなび」の「形名入力機能」だった。ユーザーは、現在使用している機器の正確な形名がわからないケースが多く、間違った形名を入力して検索する。そこで発生する表記ゆれをどこまで吸収するかの調整が必要になった。

「Desseのエンジンは、一般会話に対する回答を得意としていますが、『GOT置き換えなび』で扱うのは英数字の形名が中心です。Desseのエンジンで求める結果が得られるようにするため、SCSKと相談しながらQAシートをチューニングしました」(CDS株式会社 名古屋支社 次長 本多 卓史 氏)

「表記ゆれに対応しすぎると、必要以上の製品が候補としてあがり、お客さまが混乱します。一方、表記ゆれの基準を厳密にしすぎると、ちょっとした入力ミスでも本来候補としてあがってほしい製品が候補にあがらなくなってしまうため、表記ゆれをどの程度許容するかについて、CDSやSCSKの担当者と相談しながら調整しました」(大槻氏)

「調整にあたっては、SCSKから提供されていたテスト環境を使い、いろいろな形名を実際に検索して結果確認を行いました。目的通りの回答が出なかったときは、弊社でQAシートをチューニングして、それでも結果が改善できなかった場合、技術的なアドバイスをSCSKに求めました。仕様上の理由で改善できなかったこともありましたが、丁寧に支援いただいて満足しています」(CDS株式会社 名古屋支社 1課1係1G 主任 宮田 直明 氏)

(左から)CDS株式会社 名古屋支社 1課1係1G 主任 宮田 直明 氏
名古屋支社 次長 本多 卓史 氏

チャットボット活用を拡大し、さらなる利便性の改善を目指す

ユーザーの利便性を重視し、チャットボットの画面デザインにもこだわった。デザイン会社が制作したプロトタイプをベースにして、文字や検索窓の大きさはもちろん、表示枠などの細部に至るまで修正を加えて、三菱電機独自の画面デザインに作り上げたのだ。

「今回の導入の目的は、Webサイト上の情報を見つけやすくすること、そしてお客さまの満足度を高めることでした。そのため、まずは機能を絞ってスモールスタートしました。将来的には形名から製品情報やマニュアルが検索できる仕組みに挑戦したいですね」(大槻氏)

「FAサイトなび」と「GOT置き換えなび」のβ版は、すでに公開され多くのユーザーに活用されている。今後は、目的とする製品情報などにランディングできた割合、案内途中での離脱率、最終的な課題解決率などをKPIに設定してさらなる改善を目指す考えだ。

三菱電機のFAサイト「GOT置き換えなび」

「1人でも多くのお客さまがWebサイト上の必要な情報に到達し、満足していただくことが当面の目標です。その結果、コールセンターの問い合わせ件数の抑制が実現できたらうれしいですね」(河野氏)

「Desseには、学習機能のさらなる向上を期待しています。たとえば、よく検索される形名を学習して検索結果の上位に表示する、あるいは求める情報が見つからなかったときに関連情報を提案することができれば、さらに利便性が高まるのではないでしょうか」(大槻氏)

三菱電機では「GOT置き換えなび」でのノウハウを活かして、効率的に他製品への展開を検討している。今後、法人向けのWebサイトにおいても、チャットボットの活用はさらに広がっていきそうだ。