基幹業務システムの刷新にあたり、淺沼組が統合型ERPパッケージを選ばなかった理由
カスタマイズが発生する営業・工事系システムを、ローコード開発基盤で構築・運用

カスタマイズが発生する営業・工事系システムを、ローコード開発基盤で構築・運用
総合建設業の淺沼組は、導入から15年以上が経過し老朽化していた統合型ERPパッケージのリプレイスにあたり、ERPの標準機能でカバーできる会計・人事給与といったシステムは、クラウドERPを利用し、カスタマイズが必要な業務である営業・工事系のシステムは、ローコード開発基盤を活用して自社で構築することにした。これにより、ランニングコストの大幅削減や運用負荷の軽減を実現したのだ。

改修を重ねた統合型ERPパッケージが迅速な意思決定の妨げに

淺沼組は1892年の創業以来、高品位な環境・空間づくりに寄与してきた総合建設業である。歴史や伝統を重んじながらも、ICTを活用した先進的な技術にも積極的に対応している。

例えば、同社が進めるIT化による生産性向上の取り組み「Ai-MAP SYSTEM(アイマップシステム)」のインフラ通信システム「Ai-TEC(アイテック)」は、国土交通省が進める「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」の公募に3年連続で選定された。

このように先進的なICTを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めている淺沼組だが、その一方で課題となっていたのが、長きにわたって利用してきた統合型ERPパッケージを基盤とする基幹業務システムの老朽化だった。

「この統合型ERPパッケージは導入からすでに15年以上が経過しており、変化の激しいIT技術への対応という面からも、安定稼働、TCO削減という面からも、見直しが必要でした。また、導入当時のメンバーがほとんど残っておらず、アドオンの構成やアーキテクチャーなどがブラックボックス化し、人材育成やノウハウの伝承も課題となっていました。このままでは今後の建設業界を取り巻くビジネス環境の変化に対応できなくなるのではないかという危機感が高まっていたのです」(株式会社淺沼組 システム事業推進部 部長 神戸 太 氏)

実際に、以下のような課題が発生していた。

「15年以上にもわたりERPパッケージのアップデートを重ねた結果、データベースが肥大化してしまい、パッケージの老朽化とあわせてシステム全体のレスポンスが大きく低下していました。また、画面構成、サイズともにユーザーライクではなく、BIツールでは、データ抽出に時間がかかるようになり、業務に支障がでることもありました」(株式会社淺沼組 システム事業推進部 入谷 努 氏)

(左から)株式会社淺沼組 システム事業推進部 部長 神戸 太 氏
システム事業推進部 入谷 努 氏
システム事業推進部 向井 由香 氏

“統合型ERPパッケージに集約しない”ことで、コスト削減と運用負荷の軽減を実現

こうした課題を解決すべく淺沼組では、2016年より基幹業務システムの再構築プロジェクトをスタートさせた。既存の統合型ERPのバージョンアップも検討したが、ERPの標準機能ではカバーできない淺沼組独自の業務が多く、従来のカスタマイズによる対応は、コストが掛かり過ぎるため、採用はできない。

そこで同社では、“統合型ERPパッケージに集約しない”という選択をした。具体的には、淺沼組独自のノウハウが結集された営業・工事系システムはローコード開発基盤で柔軟に自社開発し、ERPの標準機能でカバーできる会計システムや人事給与システムについてはクラウドERPを活用するという方法である。

「統合型ERPパッケージを利用すると、淺沼組の業務や建設業の商習慣・法規制などに合わせてアドオン開発やカスタマイズ、データ連携基盤の整備、その後のアップデートなどに多大な工数・コストがかかってしまいます。これでは、抜本的な課題解決にはなりません。それならば、カスタマイズが前提となる営業・工事系システムは、最初から簡単に開発できるツールを使って自社の業務にあった画面や処理ロジックを実装したほうが得策だと判断し、稼働後も柔軟に対応できると考えました」(入谷氏)

新しい基幹業務システムの開発基盤として淺沼組が重要視していた点は、「ランニングコストの削減」「オンプレミスからクラウドへのスムーズな移行」「保守性・拡張性の高い開発基盤」「業務部門に対する利便性の向上」の4点だ。神戸氏は、「単なるリプレイス、IT化ではなく、全社にデジタル技術を浸透させ、業務を効率化できることが大きな目的でした」と、当時を振り返る。

こうした目的に叶う開発・運用基盤として選ばれたのが、SCSKの「FastAPP(ファストアップ)」である。FastAPPは「Webシステムを早く『作る』、柔軟に『育てる』」をコンセプトとしており、ローコードで容易に開発することができる。従来のERPパッケージで使っていた既存のロジックソースを生かすことができるというメリットもあった。また、IaaS環境(AWS)の設計・構築をはじめ、運用・監視といったマネージドサービスもトータルに任せることができ、大幅なランニングコスト削減や運用負荷の軽減が期待できた。

「加えて重視したのが開発サポート体制です。開発ツールを活用するといっても社内の人的リソースは限られており、新しいシステムのすべてを内製できるわけではありません。その点においてもSCSKは、旧システムの導入時からの付き合いがあり、我々の業務を熟知しているという信頼感、安心感がありました」(神戸氏)

自社で開発・保守できる環境を構築し、DXを推進

移行にあたっては、アセスメントや約680に及ぶ画面の棚卸しに2018年のほぼ1年間を充てた。しかし、この綿密な調査が、その後のプロジェクトをスムーズに進行させる土台となった。そして、2019年3月から新システムの本格的な開発をスタートさせ、予定どおり2020年5月の連休明けにカットオーバーを迎えた。

FastAPPのローコード開発では、アプリケーションを動かしながら動作を確認できるため、ユーザーの要望を画面に反映しながら開発が進んだ。その結果、使いやすい画面に生まれ変わり、新システムへのスムーズな移行が実現したと評価する。

「案件管理や営業管理、承認管理、請求入金など営業系アプリケーションの多くの画面は、業務部門の多岐にわたる要望を吸い上げつつ、SCSKとともに作成していきました。旧システムから大きく画面デザインが変わったにもかかわらず、ユーザーからの問い合わせは少なく、初めての四半期決算もトラブルを起こすことなく無事に終えることができ、業務部門の担当者もシステム事業推進部のメンバーも新システムに高い満足を感じています」(株式会社淺沼組 システム事業推進部 向井 由香 氏)

また、クラウドERPとローコード開発基盤「FastAPP」に最適化したことで、ライセンス費用を大幅に抑えられただけでなく、隠れたランニングコストの削減についても期待を寄せている。

「旧システムの本番環境がデータセンターに残っていますが、これらも2020年度内にすべて撤去する予定です。これに伴い2021年度からはクラウド移行によるデータセンター費用の削減、マネージドサービスによるインフラ保守運用の負荷軽減、オペレーションの省力化・自動化などを含めたランニングコストは、従来の2/3程度になると見込んでいます」(神戸氏)

今回構築した新しい基幹業務システムは本社のバックオフィス系の業務をカバーしているが、淺沼組が国内外に設置する作業所は年間約800カ所にも及ぶ。これらの作業所にもICTのネットワークを広げて基幹業務システムの恩恵をもたらし、さらに冒頭で紹介したAi-MAP SYSTEMとの連携を図ることで、建設現場の働き方に革新を起こすことができる。また、経営陣に向けてはKPI(重要業績評価指標)をリアルタイムに可視化するダッシュボードも検討している。

クラウド上でローコード開発を実現できるFastAPPを導入することで、淺沼組は自分たちが主体となってシステムを構築・保守できる環境を手に入れた。今回のチャレンジの成果は基幹業務システムのみならず、さまざまな領域において淺沼組のDX推進の手助けとなっていくに違いない。