迅速なサービス立ち上げが求められている
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートワーク下における業務プロセスの変革、デジタル化に対応するためのデータ利活用の加速など、事業を取り巻く環境は大きく変化している。
「感染拡大当初はリモートワークに迅速に対応したいといった環境面での要望が多かったのですが、徐々に受発注やワークフローシステムの変更など、従業員がオフィスに行かなくても業務が回る仕組みを構築する案件が増えています」(SCSK株式会社 ソリューション事業グループ 基盤サービス事業本部 クラウド基盤サービス部 部長 白川 正人)
また、データを利活用して経営スピードを上げたいというニーズも高まっているという。
「コロナとは直接関係ありませんが、BIやDWHなどにより部門ごとに最適化していたシステムを、会社全体としてマネジメントできるデータ統合基盤に移行したいという要望が増えてきました」(白川)
このような事業を取り巻く環境の変化は、システム開発の現場にも大きな変化をもたらしている。
「開発の現場では、迅速なシステム立ち上げが求められるようになっています。そのため、クラウドネイティブ、マイクロサービスという技術を採用するケースが増えているのです」(白川)
不確実な要件で迅速なサービス立ち上げが求められるケースも多い。今回取り上げる新型コロナワクチンの職域接種も「突如対応を迫られたが、なかなか要件が固まらない」一例だ。
2021年2月より医療従事者から始まったワクチン接種。各自治体では高齢者から地域接種が進めていたが、政府は接種を加速するため、6月中旬より職域接種を行う方針を打ち出した。
「自社工場などに本格的な診療所を併設しているような企業は、すぐ手を上げることもできたようですが、当社にあるのは小規模な企業内クリニックです。1万回を超える職域接種をどのように実施するのか、大きな課題でした」(SCSK株式会社 人事・総務本部 ライフサポート推進部 部長 杉岡 孝祐)
職域接種をいつから始められるのか、何を管理すればよいのか、どんな準備が必要なのかなどについて、「具体的な情報がなかなか出てこなかった」(杉岡)ことも、対応を難しくした一因だ。
しかし、不確実な要件の中で、すぐ始められる仕組みを構築しておく必要はある。
「情報がなかなか降りてこない中で、おそらくこうなるだろうと意見交換をしながら、システム開発プロジェクトを立ち上げることにしたのです」(SCSK株式会社 産業事業グループ メディア事業本部 ブロードネット第二部 第三課 課長 山本 正秀)
わずか10日間で構築した職域接種予約システム
システムに求められた要件は何よりもまずスピードだった。SCSKでは当初、6月28日から職域接種の予約の受付を開始し、7月5日から接種をスタートする計画を立てた。6月14日より開発に着手して、6月25日に開発完了するため、約5日間で仕様の確定から初回テストまで実施し、残りの5日間はアプリケーションの脆弱性検査など安全性の対応を行うというスケジュールで、プロジェクトを進めることとなった。
「不確定な要件が多いため、アジャイル開発手法で進めました。接種予約に必要な機能を想定して画面イメージを作成し、徐々に機能の詳細を詰めました」(SCSK株式会社 産業事業グループ統括本部 事業開発部 先端技術開発課 課長 望月 則孝)
開発は迅速に進んだが、2回目接種の予約をどうするかという、新型コロナワクチン接種特有の課題に直面した。
「運営スタッフとしては、1回目の予約時に2回目もセットで日時を確定させたいと考えていました。これは、2回の接種とも職域(企業内)で完了させることが求められており、短期間で無駄なく接種を終えるためにも、2回セットでの予約を望んだからです。ただ、先行して開発を進めていたシステムでは、2回目の接種日時を自由に予約できる仕様になっていました」(杉岡)
2回目の予約をどうするかについての議論はかなり白熱したという。確かに2回セットで予約日時を確定させるのは合理的だ。その一方で、「確実に接種できる日時に予約できる方式が利便性も高く、ワクチンのムダも少なくなると考えていました」(白川)。議論の結果、4週間後に接種することを前提に1回目を予約する仕様に変更した。
また、大切なワクチンを余らせることがないように、「本日の接種枠に空きがでました。ご希望の方はご連絡ください。なお、2回目の接種は本日から4週間後となります」と館内放送で呼びかける方法を採ることにしたという。
またセキュリティ面での課題もあった。グループ会社や協力会社の社員が予約できるように、予約画面はインターネット上に公開していたが、管理画面については、社内からのアクセスに絞りたい。
「セキュリティの観点から、どのような構成を組んだらスムーズなのかを考慮しました。ただ、アーキテクチャを何度か修正しましたが、大きな手戻りはありませんでした」(望月)
他に大きな課題はなく、わずか10日間というスピードで職域接種予約システムの構築に成功した。
社内クリニックのスタッフに加えて外部医療機関からの協力を得られることになり、SCSKでは最大で一日500人の接種が可能となった。その結果、4週間で5,408人、総数10,000回を超える接種を完了したという。
迅速に安全なシステムを立ち上げるには
なぜ今回は、安全なシステムを迅速に構築することができたのだろう。わずか10日間で、安全かつ高品質なシステムが立ち上げることができたのには理由がある。
第1に、AWSのサービスを活用したクラウドネイティブな開発を迅速に行い、高品質な運用を行うスキルとノウハウをSCSKが持っていたことだ。
「AWSが提供しているサービスは、インフラと開発ツールが一体化されています。そのため、クラウド専業ベンダーだとインフラのことはよく理解していても、業務ロジックの組み上げが鍵となるアプリケーション開発の知見をあまり持っていません。そうした業務ロジックに関する知見を持ち、AWSの知識を持っているのはSIerです。SIerの中でもSCSKは、AWSパートナープログラムの最上位であるAPNプレミアコンサルティングパートナーに認定されています」(白川)
顧客業務をシステム化するSCSKのアプリケーション開発部門にはAWS認定資格保有者が多数在籍。AWSとの円滑なコミュニケーションが図られており、様々なマネージドサービスの開発体制が整備されている。このようなAWSに関するスキル・ノウハウがクラウド活用を可能しているのだ。
安全なシステムを迅速に構築する上での第2のポイントが、「S-Cred+(エス クレド プラス)プラットフォーム(以下、SC+プラットフォーム)」である。
SC+プラットフォームはSCSKの社内の知見を集約し、徹底した自動化・標準化を進めることで短期構築、安定運用を実現する、柔軟性の高いAWS(Amazon Web Service)を活用したプラットフォームだ。インフラ・アプリケーション基盤としてだけではなく、開発ツールや運用管理ツールも統合されている。
「監視及び障害自動通知・自動対応機能、セキュリティ機能、監視機能、DevOps対応機能なども搭載しています」(白川)
SC+プラットフォームがリリースされたのは昨年だが、すでに80社で採用されている。あるグローバルな製薬会社ではガバナンス強化とセキュリティレベルや運用管理レベルの平準化するため、同社が所有するすべてのシステムをSC+プラットフォーム上に移行しようとしているという。
「SC+プラットフォームの使われ方は千差万別ですが、AWSを活用したシステムの短期構築、安定運用を実現することで、安心・安全なデジタル化を迅速に構築したい企業にマッチします。このように、クラウドネイティブ開発に必要なスキルとプラットフォームの両方あることが当社のアピールポイントなのです」(白川)
25年の崖を乗り越えるため、企業には、DXを推進し、レガシーシステムからの脱却、モダナイゼーションすることが求められる。クラウドサービスは、そのための有効なソリューションである。だがクラウドサービスを組み合わせて、基幹システムを含む従来システムを構築するには、クラウドサービスに関する知見やスキルに加え、業務に関する知識も必要だ。
この両方を兼ね備え、さらにクラウドネイティブ開発を迅速かつ安心安全に実現するSC+プラットフォーム。「迅速かつ安全に新しいシステムを立ち上げたい」という課題だけではなく、「クラウドネイティブな環境に移行したい」「ソフトウェアエンジニアリング環境の全体最適化を図りたい」「システム開発・運用の自動化、標準化を進めたい」といった課題を持つお客さまに欠かせない開発プラットフォームとなっている。