ビジネス環境の変化に対応する超寿命ERPとは

いま企業には、人手不足と働き方改革への対応が強く求められている。これらの課題を同時に解決するには、生産性向上の取り組みが不可欠だ。そのため、経営を支えるERPに対する考え方が変化している。リプレイスを機に自社の業務を仕分け、業務に合わせてシステムを使い分けるケースが増えているのだ。SCSKで長年ERPビジネスに携わる担当者に、ERPに求められる変化やシステムを使い分けるポイントを聞いた。

ERPへの要求は変化している

──いま、企業に突きつけられている課題のひとつに「生産性の向上」があります。人手不足は深刻になる一方、企業は働き方改革を進めて残業時間を減らす必要にも迫られています。

おっしゃるとおりですね。お客さまから「ITを活用して労働生産性を高めたい」と相談をいただくケースは、本当に増えています。

──こうしたなか、企業がERPに求めることは変わりつつあるのでしょうか。

大きく変わっています。もともとERPは、自社の経営データを直接確認したいと考える海外企業経営者の要望に応え、トップダウンの発想で開発されました。しかし近年は、働き方改革などの影響で「現場視点」が求められています。例えば、オフィスの外でも操作しやすいように、モバイル対応やインターフェースの改良などを求められるケースが多いですね。また、経営データを素早く確認したいという要望も増えています。

──企業がERPをリプレイスする際の考え方に変化はありますか。

あるように感じます。これまでは、サーバーなどの保守期間切れを機に、老朽化したERPのリプレイスを検討する企業が多数派でした。でもここ数年は、「これまで15日間かかっていた月次処理を5日間で終わるようにしたい」「ビジネスや業務プロセスを見直したいから、ERPについても再検討したい」と前向きな理由で相談に来られる企業が増えています。

──「ビジネスや業務プロセスの見直し」がきっかけでERPを見直すとは、どういうことですか。

以前の日本企業では、自社の業務に合わせてオンプレミスのERPをフルカスタマイズするのが一般的でした。しかし、そうしたやり方だと膨大な手間とお金がかかります。 そこで自社の業務を見直し、仕分けを行うことで生産性向上を目指す企業が増えてきたのです。

SCSK ビジネスソリューション事業部門 ProActive事業本部
ビジネス推進部長 五月女 雅一

フルカスタマイズから業務の標準化へ

──「ERPはフルカスタマイズして使うもの」という考え方は、変わりつつあるのですか。

はい。ERPの全機能を自社に合わせてカスタマイズするのは、過去の考え方になりつつあります。「多くの企業が使っている標準機能であれば業務の進め方も合理的だろうから、当社も一部業務については進め方を機能に合わせよう」と考える企業が増えていますね。

──そうした動きが現れ始めたのはいつ頃でしょうか。

2005年頃からでしょうか。当時の日本ではM&Aの件数が急増し、グループ会社を抱える企業が増えました。しかし、グループ企業を統制するために、コストと時間を費やしてERPをカスタマイズするよりも、「いっそグループで同じERPを導入し、標準機能に合わせて業務を標準化しよう」と考える企業が目立つようになったと思います。

──ただ、すべての業務を標準化するのは難しいですよね。

そうですね。そこで重要になるのが、標準化すべき業務・システムと、標準化すべきではない業務・システムをきちんと仕分けることです。

──標準化すべき業務・システムには、具体的にどのようなものがありますか。

例えば、会計や人事・給与などの分野です。これらは法律で定められている部分が大きく、標準機能で十分に対応可能でしょう。また、頻繁に法改正が行われる分野はクラウドサービス向きだと思います。毎年の法改正にあわせてERPのカスタマイズ部分の再適用を余儀なくされるのは、あまりにロスが大きい。「100点でなくていい、70点を目指そう。気になるところがあれば後で改善しよう」と業務の標準化を決断した企業の声が印象に残っています。

──反対に、標準化すべきではない業務・システムとは何でしょうか。

やはり、企業の根幹となる部分ですね。例えば販売管理など、自社独自のやり方で進めたいところは徹底的にカスタマイズしてもよいでしょう。「選択と集中」で、高い付加価値を生み出す部分にだけ投資するわけです。その方がコストパフォーマンスは高まりますし、スピード感も上がります。

──なるほど。標準化する業務とそうでない業務を仕分ける。そして、それぞれに合わせて「標準化する」「自社のやり方でカスタマイズする」「RPAやアウトソーシングで効率化する」など、システム化のアプローチを使い分けることが重要なのですね。

はい。自社が注力すべき業務と自社がやらなくてもいい業務をきちんと仕分ける企業は、着々と増えていると肌で感じますね。

ERPのクラウド化が進んでいる

──その意味では、「ERPのクラウド化」も、時代の要請なのですね。

その通りです。オンプレミス環境では約4年ごとにハードウェアの切り替えが発生し、リプレイスが必要になります。そのたびにプロジェクトを立ち上げれば膨大な工数が掛かりますが、クラウドであればその必要はありません。負担が軽減される分、本業に注力できるのです。

──以前は、システムに大きな予算を割けない中小企業がクラウドERPを使っているというイメージがありましたが、いまは違いますか。

大企業でも、クラウドERPを採用するところが増えています。カスタマイズせず標準機能を使うのであれば、オンプレミスにこだわる必要はありません。導入工期が短縮できることもメリットが大きいと思います。最短で1カ月程度、規模やデータ移行の有無、対象業務などによって異なりますが、3カ月ほどで導入するケースが多いです。そして、クラウドの特長である「柔軟性の高さ」もポイントとしてあげておきたいですね。

──柔軟性の高さとは。

クラウドERPなら、会計や人事など一部のモジュールだけを導入できます。その後は必要に応じて段階的に拡張し、全体最適を実現することも可能。つまり、小さく始めて大きく育てられるのです。SCSKが国産初のERPとして開発した「ProActive」も、クラウドでの需要が急速に増えています。

──ユーザー企業が一番気になるのはセキュリティレベルだと思います。ERPをクラウドで使うことに不安を抱いている企業も多いのではないでしょうか。

たしかに、セキュリティに関する相談は多くいただきます。弊社では、ISO認証やデータセンターのセキュリティ対応はもちろん、アプリケーションの機能強化をするたびに外部攻撃に対するテストを行い、SLAを定めて取り組んでいます。クラウド型になって、セキュリティ対策を実施する頻度はむしろ多くなっているのです。

標準化できる業務と独自業務をハイブリッドで運用することで、
ビジネスの変化に対応する

環境変化に対応する超寿命ERP

──ProActiveは現在、6,000社260グループに導入されています。どうして、これほど多くのユーザー企業に使われるようになったのでしょうか。

理由はいくつかあると思います。まずは、「“国産ならでは”の良さ」を評価していただいたこと。ProActiveはビジネス現場で得た豊富な経験を生かし、日本企業、日本のビジネスパーソンにとって使いやすい改善を重ねてきました。また、ユーザーインターフェースについても現場視点に基づいた工夫を数多く施しています。さらに、日本の商習慣に対応し、消費税改正など日本独自の動きにいち早く対応している点も長所ですね。

──ほかには、どのような点が評価されているのでしょう。

グループ経営を支える機能がふんだんに盛り込まれている点も、お客さまから評価されています。複数のグループ会社で共通のシステム基盤を導入するには高度なノウハウが欠かせませんが、SCSKには豊富な実績と確立された導入メソッドがあるのです。グループ全体の財務会計システムをProActiveに統合したある企業では、それまで1カ月近くかかっていた決算の月次処理が10営業日で完了。担当の方からは「ProActiveによる財務会計基盤の統合がなければ、連結決算などには対応できなかっただろう」と評価いただいています。

──最近、特にニーズが高い機能は何でしょうか。

働き方改革に伴い、勤怠管理に関する機能が注目を集めています。フレックス勤務や在宅勤務など、多様な勤務形態を取り入れる企業が増えているため、ProActiveにも出退勤の打刻をスマートフォンで行える機能などが盛り込まれました。また、従業員ごとにPCのログイン時間と打刻時間の間にズレがあった場合にアラートをあげたり、残業時間が長い従業員がいると警告したりするなど、コンプライアンス違反を防止する機能も重宝されています。

──業務効率化については、どうですか?

経費精算機能がユーザーから好評です。AI-OCR(AIを活用した文字の自動読み取り機能)を使って領収書を簡単にデータ化し、スマートフォンで経費申請・精算できる仕組みは、会計と現場双方の負荷を軽減できます。このAI-OCRはディープラーニング(深層学習)技術により、読み取るごとに精度が上がっていきます。

──RPAによる業務効率化も注目されています。

ProActiveには、WEBアプリを簡単に作れるサービス「CELF」との連携機能があります。CELFが持つRPA機能を組み合わせることで、ERP自体には手を入れずにさまざまな定型作業を効率化できます。

──「WEBアプリを作る」と聞くと、とてもハードルが高い印象ですが。

いいえ、そんなことはありません。CELFは高度なプログラミング技術を必要とせず、ブロックを組み合わせる感覚でアプリを開発できます。Excelの知識がある人なら、気軽にさまざまな業務効率化ツールを作れるでしょう。

──環境が変化するなか、ERPへの要求に応えてきたわけですね。

強調しておきたいのは、保守サポートの期限がない「超寿命ERP」である点です。ProActiveはバージョンアップのたびに新機能を追加して便利になっていますが、新たな機能が不要なお客さまも、ご利用中のバージョンのサポートを引き続き提供しています。このように、国産初のERPとして26年間、お客さまのご要望に応えてきました。それが私たちの責務だと思っているのです。