データ・AIを活用した新たな損害サービス
あいおいニッセイ同和損害保険の戦略的な取り組み
あいおいニッセイ同和損害保険の戦略的な取り組み
自動車産業は100年に1度と言われる変革期を迎え、万が一の事故の際にドライバーを支える自動車保険にも変化が求められている。あいおいニッセイ同和損害保険では、業界に先駆けて「テレマティクス自動車保険」を発売し、AIなどを活用した新たな事故対応サービスの実現に取り組んできた。同社は何を目指しているのか、AI技術をすばやくサービス活用できたのはなぜか、「テレマティクス自動車保険」のパイオニアとしての取り組みを紹介したい。

コネクティッドカー(IoT)で、自動車保険はどう変わる?

自動ブレーキなど安全装置の普及により、自動車産業は現在、100年に1度の変革期を迎えている。自動車事故による死亡者数は減少している一方で、アクセル・ブレーキの踏み間違えなどによる高齢者の事故は年々増加傾向にあり、暴走運転やあおり運転なども社会問題となっている。

こうした事故を未然に防ぐため、インターネットに接続した自動車、いわゆるコネクティッドカーの普及率は年々高まるだろう。すでにドライブレコーダーはかなり普及しており、すべての自動車がIoTデバイスを通じてインターネットにつながる日も近い。ドライバーに安心を提供する自動車保険のあり方も、時代に合わせて変わっていく必要がある。

あいおいニッセイ同和損害保険は、ドライブレコーダーなどのデバイスからの運転情報を利用し、安全運転をサポートするとともに保険料を割り引く「テレマティクス自動車保険」の英国最大手を買収し、業界に先駆けてテレマティクス自動車保険を販売するなど、ITを活用した自動車保険の提供に積極的だ。

「テレマティクス自動車保険を提供するには、自動車に取り付けたドライブレコーダーなどのデバイスを通じて、データを取得し、分析する必要があります。つまり、走行距離・運転速度・急ブレーキといった運転挙動から運転者ごとの特性をスコアリングし、事故リスクを割り出すのです。あいおいニッセイ同和損害保険では、こうした取り組みをさらに発展させ、万が一の事故対応の際にも役立てようと、テレマティクスを活用した損害サービスシステムの開発に乗り出しました」(沼田氏)

あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 IT統括部長 沼田 俊彦 氏(2020年3月現在)

あいおいニッセイ同和損保が目指すのは

事故が起きた場合、これまではドライバーからの連絡を受け、ヒアリングした内容から事故状況を推測し、過失・示談交渉という事故対応が行われてきた。しかし、テレマティクスを活用すれば、事故を検知した保険会社からいち早くドライバーに連絡し、デバイスから取得したデータをAIが分析することで、事故状況の確認や過失割合の自動算出が可能になる。

まず取り組んだのが、テレマティクス情報の可視化。つまり、運転状況や速度、標識や天候など、多岐にわたるデバイスからの情報をドライブレコーダー映像と組み合わせて可視化し、全国のサービスセンターで閲覧可能としている。

次に、事故検知の高度化である。高度な事故対応サービスの実現には、正確な事故検知が前提となる。デバイスから衝撃や加速度などの異常を検知しても、事故ではない衝撃と本当の事故の判別は難しい。そこでAI技術を活用し、ディープラーニングによって衝撃の波形を解析する事故検知アルゴリズムを、SCSKと共同で実現し、特許も取得した。

さらに次のステップとして、事故の相手車両の運転挙動をAIで解析し、事故状況を客観的な情報をもとに把握する。そして、事故状況と過去の判例情報をもとに、過失割合の判定をサポートする。ここまでを2020年度に実現する予定だ。

「重要なのは、事故検知の精度です。実はあいおいニッセイ同和損害保険では、以前から衝撃時の合成加速度や移動距離などのデータを取得することで、事故を検知しようと試みてきました。ただ、以前のシステムでは、たとえば縁石に乗り上げた際の衝撃なども事故であると判断していました」(沼田氏)

「テレマティクス損害サービスシステムの開発は、すぐに100%は求めず、段階的にアジャイルで開発しました。実現性の高い領域から開発し、検証できたものから順次リリースすることで、短期かつ高品質なサービス提供を実現しています。」(沼田氏)

開発プロジェクトは、あいおいニッセイ同和損害保険も含めた7社体制となった。野村総合研究所がテレマティクス情報の可視化、SCSKが事故検知のアルゴリズム、富士通が動画解析エンジン、大日本印刷とインテリジェント・ウェイブが判例データベースによる過失割合判定エンジン、日本アイ・ビー・エムがAPI連携基盤を担当する。

「7社が連携することの難しさに加えて、テレマティクス損害サービスシステムには特有のハードルも存在しました。例えば日本では、自動車事故の過失割合を5%刻みで細かく判定しているため、過失判定に高い精度が求められます」(沼田氏)

業務適用を目指し、事故検知アルゴリズム開発では妥協せず

テレマティクス損害サービスシステムのうち、事故検知を高度化するアルゴリズム開発では、衝撃時の加速度波形をAI解析することで、事故を正確に検知できるという仮説を立てた。しかし、そもそも当時の日本国内の商品・デバイスで取得しているデータは件数が少なく、衝撃検知時の前後数秒のデータが存在しない。そこで、既に大量のデータを保有していた英国のテレマティクス自動車保険会社のデータを利用することとした。

「開発当初、統計解析、ニューラルネットワーク、ディープラーニングなどのAI解析の手法のうち、どれが事故検知のアルゴリズムに向いているかはわかりませんでした。そのため、1つの手法だけにこだわらず、様々な手法を使ったPoC(実証実験:Proof of Concept)を同時並行で進めることにしました。その結果を比較して、最も優れた手法を採用することにしました」(沼田氏)

さまざまな検証の結果、時系列データ学習モデルの精度が一番高かった手法はSCSKのAIモデル構築サービス「SNN(SCSK Neural Network toolkit)」によるディープラーニングだった。

PoCの結果、8割以上の事故検知精度が実現できる見込みは立った。次はいよいよ、国内のデータでPoCを実施することにした。衝突時の実際のデータを取得するため、用意した自動車に同社のテレマティクスデバイスを取り付ける。そして、追突、正面衝突、側突、玉突きといった実際の事故を想定した場面やドアの開閉、急ブレーキといった非事故場面など、計30シーンにおよぶ衝突実験を繰り返し実施した。

「ところが、こうして取得した国内データを検証してみると、事故検知精度が低いことが判明しました。海外データでは8割以上あった精度が、国内データでは2割程度と極めて低かった。当初、原因がわからず、プロジェクトが頓挫する危機感を感じました」(沼田氏)

そこで、デバイスの違いによるデータの差異を細部まで検証し、デバイスによって最大加速度が異なること、そのため同じ衝撃でもデバイスごとに加速度波形が異なること、そして得られるデータにはセンサーの仕様や取り付け位置といった様々な要因が影響することがわかった。そして、SCSKとともにデバイスの差異をなくして均一化する仕組みを開発し、時系列データ学習モデルの事故検知精度が8割以上に改善した。

リリース前の検証においても、重大事故となる横転事故が検知できていないことが判明したが、追加学習によって無事に事故検知アルゴリズムの開発が完了した。テレマティクス損害サービスシステムによって、テレマティクス情報の可視化、事故検知の高度化が可能になった現在、沼田氏は「PoCは技術検証になりがちだが、実験を目的にはしない。あくまでも業務適用が目的という意識を徹底したこと」「IoTデータは収集・分析が難しいため、デバイス仕様の理解に努めたこと」が、実用可能なAI/IoTシステムの開発につながったと言う。

「AIはまだ発展途上なので、最初から完璧は求めず、一定の割り切りで業務に適用することが重要です。そのうえで、今後もデータを収集して精度向上に取り組んでいきます。一方で、システム全体のグランドデザインは慎重に進めました。最初の構想段階でやりたいことを明確にしておかないと、拡張性、標準化、共通化など、後からの調整が難しいからです」(沼田氏)

あいおいニッセイ同和損害保険は、今回構築したプラットフォームを活用して、「24時間365日事故対応サービスの更なる高度化」「対物賠償保険金のお支払いまでの日数を約50%短縮」などの目標を掲げ、新商品の開発や新たなサービスの提供につなげる予定だ。さらに、他社へのサービス公開も視野に入れ、テレマティクス技術の活用により安全・安心なクルマ社会の実現への貢献を目指しているのだ。