オリックス生命が成功したコールセンターシステムの大規模改修(後編)
業務改革と新技術の導入で、オペレーターの後処理時間を4割削減

業務改革と新技術の導入で、オペレーターの後処理時間を4割削減
継ぎ接ぎのシステムを抱えていたオリックス生命が、システムの大幅改修を決断(前編参照)。しかし、いざプロジェクトが始まると、要件の絞り込みやテスト設計、オペレーターの教育など、課題は山積だった。どのように、こうした課題を解決していったのか。またオペレーターの後処理時間の削減のため、新技術(シングルページアプリケーション、マイクロサービス、コンテナ)をどのように活用したのか。このプロジェクトの取り組みと成果を見ていこう。

要件の絞り込みに苦労

要件定義は業務部門とIT部門を中心に行った。それぞれの部門からキーとなるメンバーを選出し、「業務と紐付けながら行うというオーソドックスな方法を採用しました」(オリックス生命保険株式会社 ITアプリケーション開発部 マネジャー 木原 真一 氏)

まずは業務部門のメンバーに、どういう形で業務を処理したいのかの要望を出してもらう。もちろん、その要望はシステム要件ではないため、プロジェクトのPMOメンバーにITの言葉に翻訳してもらい、それがIT部門および開発を支援するSCSKのメンバーに伝えられた。

「当社ではシステム開発プロジェクトがいくつも動いていますが、失敗の多くが要件の洗い出しが不十分で、後出しされること。今回のプロジェクトではそんな失敗がないよう、とにかく最初の段階で要望をすべて出してもらうよう努めました」(オリックス生命保険株式会社 オペレーションデザイン部長 中村 徳彦 氏)

プロジェクト期間1年半のうち、要件定義に2~3カ月かけて、スコープを調整していったという。最も苦労したのが、要件の絞り込みである。

「書類の種類やその後のオペレーションの種類など、細分化された業務パターンが1,400種類ぐらいありました。これを削減しないと、業務の効率化は実現しません。そこでこの細分化された業務を統合し、抜けがないようにチェックしながら120まで絞りました」(中村氏)

強制的に業務が変わることになるため、中村氏は「その調整が一番大変だった」と言う。後続処理を行う部門は複数にまたがる。それらすべての部門にはそれぞれの要求・要望があったからだ。またコール数が増えたとしてもオペレーターの人数を増やさないようにするには、オペレーターの業務処理の時間も削減する必要がある。

「1本の電話を受けてから、次の電話を受けるまでの時間については、15%削減することを目標にしました。そのために、フリーテキストでの入力をやめ、問い合わせに関するモノはプルダウンで選択できるようにしました」(オリックス生命保険株式会社 オペレーションデザイン部 マネジャー 大﨑 英司 氏)

(左から)オリックス生命保険株式会社 オペレーションデザイン部長 中村 徳彦 氏
ITアプリケーション開発部 マネジャー 木原 真一 氏

保守性、再利用性、拡張性の観点からコンテナ技術、マイクロサービスを採用

また、今回のシステムでは、Dockerというコンテナ技術とマイクロサービスの採用を決めていた。

「移行しやすかったり、何か障害が起こったときに切り戻しが容易だったりなど、保守性、再利用性、拡張性の観点からコンテナ技術の採用を決めました」(木原氏)

コンテナ技術を採用することで、開発者が動作確認したモジュールをそのまま本番環境に配置することができ、リリース作業で発生する人為的ミスはほぼゼロになる。また、システムのレスポンスが遅ければ、設定1つでサーバの台数を増やして水平分散することで、レスポンス向上も可能になる。

「マイクロサービスのアーキテクチャー原則に則ることで、顧客照会や代理店照会といった業務の最少単位でAPIを構築し、仕様変更の影響範囲を最小限にとどめることができます。また、本システム以外でも利用可能なサービスとなるよう、設計時に再利用性にも最大限配慮しました」(SCSK 金融システム事業部門 金融システム第二事業本部 総合金融システム第四部 第一課長 吉澤 徹平)

ただし、マイクロサービスの実現にあたっては課題もある。サービスの構築単位を小さくしすぎると、API呼び出しのオーバーヘッドが大きくなり、システム全体の応答性能が落ちてしまう可能性がある。また、複数のシステムと連携させるには、違和感のない応答性能を引き出す必要もある。そのため、設計後もチューニング作業が続き、その作業が終了したのはシステムテストフェーズだった。

アーキテクチャーが決まり、開発が始まった。まずは土台となる参照システムを開発し、次に機能を拡張するという形で接続先システムに手を入れた。新システム切り替えにあたり、接続先システムに手を入れることになるが、既存システムの保守担当者と協力することでうまく乗り切ることができたという。

「すべてのシステムを一斉に切り替えるためです。万一、切り替えがうまくいかないとすべての業務がストップするため、システム移行は慎重に慎重を重ねました」(木原氏)

システムテストと受け入れテストを並行して実施

今回のプロジェクトで特徴的なのは、IT部門によるシステムテストと業務部門による受け入れテストを並行して行ったことだ。

「IT部門が考えるシナリオには限界があるからです。だから業務部門の方に業務シナリオの要素を入れてもらい並行して実施し、テスト期間は通常5~6カ月かかる規模を2~3カ月で実施しました」(木原氏)

照会システムを実際に操作して情報の見え方を確認してもらい、業務に不具合がないか修正していくことで、本リリースにたどり着いたのである。また開発と同時並行でオペレーター教育も実施した。

「支社や他拠点の人たちを含め1500人ぐらいの方に、2カ月ほどかけてシステム操作に関するトレーニングを実施しました。かなり大規模な教育でしたが、特に問題もなくスムーズに進みました」(中村氏)

トレーニングが全員に行き渡ったタイミングでシステムの切り替えを実施。その後は、大きな障害が発生することなく順調に稼働しているという。

平均処理時間を4割削減、システム研修時間も半減

新システムはオペレーターの評判も非常に良い。

「画面が見やすい、操作がしやすい、見たい情報が全部網羅されているなど、大好評です。当初、後処理時間の削減を15%できればと考えていましたが、リリース後1カ月でその倍の30%削減を実現。さらに今は40%削減を実現しています」(大﨑氏)

一人あたりの処理時間が削減されたことで、取れるコールも増える。「今後、コール数が増えたとしても増員せずに応対が可能になるのでは」と大﨑氏は期待を寄せる。

効果はそれだけではない。オペレーターのシステム研修時間も半減できたという。このような数字的な効果が見えていることで、「プロジェクトとしても非常に評価されています」と中村氏も力強く語る。

ただ、コールセンターの効率化はこれで終わりではない。

「現在、支払い方法を変更したいといったお客さまの要望を受けたとき、オペレーターは、そのお客さまがその要件を満たしているかなどを即座にチェックできないため、当該業務の担当者に引き継いで応対しています。ですが、その判断をオペレーターができれば、後処理業務の負担も削減できます。当社では全社的に業務量を減らすことに取り組んでいるので、そこにも貢献できるようになるでしょう。そのような業務の効率化、自動化ができるようなシステム拡張に取り組んでいきたいですね」(中村氏)

電話ではなくインターネットで手続きができるような仕組みも、次のステップで検討していきたいという。

「たとえば、本人確認できる仕組みを導入して、住所変更などはお客さま自身がネット上でより簡便にできるようにすることなども考えています」(中村氏)

一方の木原氏は「会社の情報として、どの部署の人たちからも同じ情報を即座に確認できる仕組みをシステムで実現したい。より業務効率化につながる仕組みに成長させていきたいと思います」と意気込みを語る。

「SCSKとしても顧客接点領域は、今後注力していきたい分野です。潜在的なニーズについても提案できるよう業務理解を進めます。また、導入いただいているコールセンター基盤「PrimeTiaas(プライムティアーズ)」の柔軟性も活用して、お客さまのコールセンター高度化や品質向上のためにサポートしていきたいと思います」(吉澤)

コールセンターのシステムが刷新されたことで、業務効率化はもちろん、顧客へのサービス向上が実現したオリックス生命保険。さらなるサービス向上に向け、コールセンターの改善は続いていく。