オリンパスが取り組む医療機器向けの高度な応対品質。AI音声認識システムの効果は?

オリンパスの医療分野向けコンタクトセンターでは、年に約20万件もの問い合わせ電話を受ける。受電数の多さと専門性の高い問い合わせ内容から、課題となっていたのは後工程業務として応対内容を記録する「応対記録」だ。同コンタクトセンターでは2019年、電話でのやりとりをテキスト化するAI音声認識システムを導入した。導入に至った理由は何だろう。また、導入によりコンタクトセンターの現場はどう変わったのだろう。

高度な専門性が求められるコンタクトセンター

オリンパスは、カメラやICレコーダーなどの光学・電子機器メーカーとして広く知られる。同時に、消化器内視鏡の世界シェアが70パーセントに達するなど、医療機器の分野でも世界トップクラスのメーカーである。同社が世界で初めて胃カメラを開発したのは1950年のこと。以来、さまざまな内視鏡と周辺機器を手がけ、現在の取り扱いアイテム数は数万点に及ぶ。

同社では、医療機器分野専門のコンタクトセンターを設けている。顧客や協業パートナーなどに対して、医療機器のサポートにかかわる各種オペレーションや情報提供業務を行っており、365日対応で年間の受電数は約20万件だ。

「取り扱っているものが医療機器なので、応対には気を遣わなければなりません。機器の操作方法や特徴など明確に答えられる内容について、正しい情報提供を行うよう常に心がけています」(オリンパス株式会社 医療国内マーケティング 医療カスタマーインフォメーションセンター コールセンター運営2課長 新川 洋平 氏)

コンタクトセンターでは、電話が入るとまず受付オペレーターが回答する。受付オペレーターで問題を解決できなければ、高度な知識を持つ専門オペレーターに引き継がれる。コンタクトセンターでは顧客とほぼ同様の環境で応対する。そして通話が終わったら、オペレーターがその応対記録を残すのだ。

「受付オペレーターだけで応対が終了するケースは、それほど多くありません。残りは専門オペレーターが状況を聞き取り、要望に応じて機器の使い方などを説明します。それでも解決できない場合は、現地に派遣された修理担当者が対応します」(オリンパス株式会社 医療国内マーケティング 医療カスタマーインフォメーションセンター コールセンター運営1課長 川谷 良治 氏)

オリンパスのコンタクトセンターでは、「5秒以内に95パーセントの電話を取る」という目標を掲げている。こうした取り組みを通じて応対品質を高めることが、企業や製品への信頼感を高めると考えているからだ。

「必要なときにすぐ電話対応してくれる窓口があることは、医療機関の安心感につながると思います。お客様対応にあたる営業担当などにとっても、発売間もない製品の詳細情報をすぐに入手できるコンタクトセンターは、助けになっているはずです」(新川氏)

オリンパス株式会社 医療国内マーケティング 医療カスタマーインフォメーションセンター コールセンター運営2課長 新川 洋平 氏

医療機器のコンタクトセンターが抱える課題とは

オリンパスのコンタクトセンターにおいて専門オペレーターに求められるのは、機器に関する表面的な知識に留まらない。例えば、内視鏡による組織採取や処置をする場合、通常、複数の道具を組み合わせて使う。こうしたユーザーからの問い合わせに答えるには、膨大な製品群から適切な組み合わせを選ぶ知識が不可欠だ。また、先端医療の動向や医療現場でスタッフに求められる行動も理解しておく必要があるだろう。電話で相手の状況を把握し、わかりやすく説明するコミュニケーションスキルも重要になる。

オリンパスでは、オペレーターの習熟度を高めるため、「学会で発表された文献や手技のビデオをいち早く取り寄せて学ぶ」「オペレーターのグループごとに担当医療分野を決めて専門性を高める」「マニュアルやナレッジを共有する」などの取り組みを行ってきた。しかし、専門性の高い質問については、人によって応対に差が出ることもあった。

「応対記録をしっかり残すのが望ましいことはわかっていました。しかし、オペレーターによって記録の取り方はどうしてもバラツキが出ます。お客様の問い合わせ内容を細かく記録するオペレーターもいれば、簡潔な記録のみを残す人もいました。また、お客様とのやりとりが複雑で長いと、応対記録の作成に時間を取られてしまっていたのです」(川谷氏)

オペレーターによる応対記録の質のバラツキをなくし、質の高い記録をできるだけ工数をかけずに残す。そうした課題を解決するために導入を検討したのが、AI音声認識システムだった。電話でのやりとりをAIがすべて自動的にテキスト化することで、課題解決を目指したのだ。

AI音声認識システムを導入したことで、
どのような成果が上がったのか

同社は5年ほど前にもAI音声認識システムを検討したが、そのときは、認識率が低く導入を見送った。そのため今回は、音声認識率など、いくつかの項目でAI音声認識システムを検証した。

音声認識システムの検証項目は、「音声認識率」「工数削減効果」「管理者によるモニタリング機能」「オペレーターに対して口癖などの注意を促すポップアップ機能」「応対品質を確認する通話評価機能」「リアルタイムで通話テキストを出力する機能」の6つだ。

検証の結果、音声認識率が格段に上がり、工数削減効果についても確認できた。たとえば、従来は通話時間約3分の通話データを、7分程度かけて書き起こしていたが、音声認識を活用すれば、すでにテキスト化されている文章を要約・修正するため、2分45秒で書き起こしが終了する。約6割減という大きな工数削減が可能になったのだ。

そこでオリンパスは、音声認識システムの導入を決めた。アドバンスト・メディア社製の音声認識システム「AmiVoice Communication Suite(アミボイス コミュニケーション スイート。以下、AmiVoice)」である。また、音声基盤もSCSKが提供する音声基盤システム「PrimeTiaas(プライムティアーズ)」に切り替え、クラウド型のコンタクトセンターサービスの活用を始めた。

AI音声認識システムの導入から、約1年。管理工数については、明らかな削減効果が出ているという。

「最大のメリットは、管理者がリアルタイムで各オペレーターの状況を画面で把握できる点ですね。音声と違い、テキストなら複数のやりとりを同時にチェックすることも可能です。画面上でテキストを確認していれば、何かトラブルが起きて通話が長引いているのかも、管理者がすぐに察知できます。状況に応じて、応対中に管理者がサポートしたり、応対終了後に問題点をフィードバックしたりするのも容易です」(川谷氏)

すべてのやりとりが自動的にテキスト化されるため、オペレーターの判断で重要な情報が応対記録に残らないという状況はほぼなくなった。また、AI音声認識システムは応対品質の向上にも一役買っている。

「優秀なオペレーターは、トラブル対応時に上手に質問し、原因を的確に特定していきます。そのやり方を全メンバーで共有することで、オペレーターのスキルアップや応対品質の標準化に役立てています」(川谷氏)

オリンパス株式会社 医療国内マーケティング 医療カスタマーインフォメーションセンター コールセンター運営1課長 川谷 良治 氏

音声の認識率については、さらなる向上を期待しているという。日常会話の認識率は十分に高いのだが、会話に医療用語やカタカナ、数字・アルファベット混じりの製品型番など専門用語が混じると、認識率は下がってしまう。

「AI音声認識システムを導入した翌月ごろから、SCSKと協力しながら辞書のチューニングを進めています。オリンパス側では、製品型番など認識率の低い言葉の辞書登録を進めているところです。さらに認識率が高まれば、一層の省力化が期待できると思っています」(川谷氏)

オリンパスは、さらなる応対品質の向上や応対記録の省力化、ひいてはコンタクトセンター全体の品質向上に向けて、AI音声認識システムに期待をかけている。

「1年前の時点で、当コンタクトセンターにおける『後工程業務』の比率は約60パーセントでした。AI音声認識システム導入などによる省力化で、後工程を50パーセント程度に抑えるのが今の目標です。そうすれば、オペレーター1人が受けられる電話の本数をさらに増やせますし、応対品質の向上にも役立ちます。そのカギを握るのは、音声認識率の向上です。応対記録については、引き続き標準化に取り組みつつ、今後は内容の分析も進めたいですね」(川谷氏)