BPOのノウハウで業務を可視化すれば、最適な策がわかる
環境変化が激しい人材サービスの業務効率化

環境変化が激しい人材サービスの業務効率化
昨今、業務改善や組織改編などにより、ビジネスの効率アップを目指す企業は多い。しかし、ノウハウや時間が不足しているため、自社だけで満足のいく結果を生み出すのは難しい。そこで検討したいのが、豊富なノウハウを持つBPO専門企業の業務プロセスコンサルティングサービスだ。ここでは、イベント運営に時間を取られ、他の業務に手が回らないと悩む人材サービス会社が、BPO専門企業のノウハウをどのように活用したのかを見ていこう。

就職・転職イベントが急増する人材サービス会社の課題

昨今、少子高齢化による労働力不足と景気回復で、求人倍率は右肩上がりとなり、多くの企業は人材獲得に注力している。そのため、人材サービスを提供する企業(以下「人材サービス会社」)にも、多くの引き合いが集まる。

競争激化でニーズが高まっているのが、「就職・転職イベント」だ。就職・転職イベントでは、就職・転職志望者が複数企業の情報を一度で得られ、企業側も多くの人材に直接アプローチできるからだ。

しかし、イベント運営には手間がかかる。出展企業を募り、会場のレイアウトを確認し、参加者向けのプレゼントを用意し、集客に向けてPRしなくてはならない。しかも、すべてが同時並行だ。そして、こうした業務に工数をかけすぎると、肝心のイベントの企画業務や日常業務に手が回らない。

また、この種のイベントは週末に開かれることが多い。休日出勤したマネージャーやキーパーソンが代休を取ると、経験が浅いスタッフの業務が滞り、ひいては部署全体の業務効率が落ちてしまう。就職・転職イベントの開催が急激に増えた人材サービス各社では、業務効率化に向けた施策が切実に求められていた。

属人的な業務ノウハウに依存する進め方に限界がきた

人材サービス会社のA社も、就職・転職イベント担当者の負担増加に悩んでいた。イベントの数は数年前に比べて倍以上となり、イベントが集中する期間には、「1カ月間、土日はすべて出勤」というメンバーもいたという。部署全体の残業時間も増える一方だった。

A社特有の事情もあった。同社では人事異動が頻繁で、就職・転職イベント担当部署でも人の入れ替わりが激しい。自主性・独自性の尊重を良しとする社風もあり、仕事の進め方をマニュアルとして整備するという発想が少なかった。

就職・転職イベントには、独特なノウハウがある。例えば、同業界に属する企業のブースを隣り合わせにするのはご法度。就職・転職志望者も企業側も、余計な気を使うことになるからだ。だが、マニュアルがなくノウハウが共有されていないと、再調整が頻出する。

担当者のなかには、地道で細かな運用を苦手とする人、経験が浅く業務知識が不足している人も少なくなかった。また、いくつかのイベントの準備を並行して進めるため、タスク管理がうまくいかず、進捗に影響が出ることもあった。イベント数が増え、一人ひとりがこなせる業務量を超えるなかで、A社はこれまでの進め方に限界を感じていた。

そこでA社は、課題解決に向けて動き出す。目指すのは、「業務を効率化して、戦略や企画といった『本来打ち込みたい仕事』に集中する」「担当者のレベルによってイベント運営の品質が左右されないよう、業務を標準化する」「細かな管理業務を苦手とする人でも、仕事の抜け漏れがなくなる仕組みを整える」ことだ。

業務改革に向けて声をかけたのは、以前からコールセンターやヘルプデスクの運用などで付き合いのあったBPO専門企業SCSKサービスウェアだ。A社では、過去にもコンサルタントを入れていた。だが業務分析の結果、コンサルタントから提出されたのは、業務の問題点を指摘する単なるレポート。具体的なアクションにつながらなかった点に不満が残った。そこで、SCSKサービスウェアの業務プロセスコンサルティングサービス「B-RAP(ビー・ラップ)」を活用しようと考えたのだ。

狙いは、部署やメンバー一人ひとりが抱える業務を可視化すること。そして、属人化していた業務プロセスを標準化し、新しく配属された人でもスムーズにこなせる仕組みを作ることだった。

B-RAPを担当するSCSKサービスウェア マーケティングサービス部 BPRコンサルティング課 係長 岩佐 真樹。

業務プロセス分析の結果、表面化した問題点

SCSKサービスウェアがまず取り組んだのは、調査要件の確認と調査対象の明確化だ。さまざまな社内資料を集めた上で、調査する範囲を決めた。

「A社の場合、商品・サービスの説明資料、業務マニュアル、体制図といったマニュアル類がほとんどありませんでした。そこで、何人かの方にインタビューを行って概要の確認に努めました」(SCSKサービスウェア マーケティングサービス部 BPRコンサルティング課 係長 岩佐 真樹)

ある程度の情報収集を終えた段階で、さらに幅広い人々にインタビューを実施する。通常は、仕事の流れと使っているツール、仕事の中で起きている問題点、面倒に感じている点を重点的に聞く。

特に、業務別の作業工数はほとんどのケースで調べるという。「業務のどこに問題があるのか」を把握した上で、改善効果の大きい作業工数の多い業務から優先的に取り組めるようにするためだ。

A社の場合には、「イベント前日までの準備とイベント当日の対応にかかる作業工数」「エリア別、平日/土日別、役割別のイベントの開催状況やアサイン人数」をグラフ化し、さまざまな切り口から現状を可視化した。

「休日出勤に人が取られすぎているな」と感じていても、それだけでは組織として動きにくい。しかし具体的なデータが確認できれば、通常業務に及ぼす影響の大きさをリアルに把握でき、アクションにつながるからだ。

B-RAPによる業務可視化のすすめ方

具体化される、実現可能な実行プラン

明らかになった問題点は、主に三つあった。一つめは、イベント出張に取られる時間が多すぎることだ。これでは、メンバーの時間的・体力的な負荷が大きいだけでなく、マネージャーやキーパーソンが平日に代休を取ることで意志決定が遅れたり、問い合わせ対応が滞ったりするなどの弊害も発生する。

「我々の提案は、イベント当日に、どのような役割を果たす人が何人必要なのかを再検討することでした。業務の一部は、廃止や簡素化、リモート化や兼務でも対応できると考えたからです。その上で、本当に必要な人だけがイベント当日参加すれば、当日に参加するスタッフの数を削減できます。例えば、イベント会場の導線確認作業は、イベント運営会社に任せればいいので廃止するように提案しました」(岩佐)

二つめは、各メンバーの作業が明確になっていなかったこと。そのため、タスクの抜け漏れや手戻りが多数発生していた。そこで、業務単位のマニュアルやフォーマット類ではなく、やるべきこと・発生時期や納期の情報を記した、汎用(はんよう)性の高い全体管理ドキュメントを提案した。

業務単位のマニュアルやフォーマット類は細かな部分まで作り込む必要があり、作成に時間がかかる。また、業務内容やフローが変わるたびに変更が必要で、更新されず使われなくなることもある。しかし全体管理ドキュメントならメンテナンスも容易だ。

そして三つめは、業務の方針やプロセスが頻繁に変更されること。これは、ビジネスの環境変化が激しい人材サービス業では、避けられない。そのため、各メンバーの担当業務のうち、集約可能なものを抽出し、一元化やアウトソースをするように提案した。

「たとえば、イベント講演の開催にあたっては、登壇者のリストアップや講演時間割の作成、講演情報のフォーマット記入などの準備作業が発生します。これらのタスクを、イベント担当者ではなく、別のスタッフがまとめて行うように提案しました。」(岩佐)

イベント当日業務の効率化により年100時間、業務の集約・アウトソースにより年240時間以上が削減可能になる。これらの業務効率化と業務標準化・ドキュメント作成によって生まれた時間は、イベント企画や事業戦略立案といった業務に充てられるだろう。

ここまで見てきたように、業務プロセスコンサルティングサービス「B-RAP」の特長は、単に現場の状況や問題点の可視化だけでなく、地に足がついた実現可能な実行プランがセットで提案されることだ。しかも、改善効果の大きい作業工数の多い業務も明示されるので、業務改善プランの方針を立てやすい。

これは、SCSKサービスウェアが実際に様々な現場で業務のアウトソースを請け負っているからだろう。つまり、顧客と同じ目線で、業務改善に役立つ標準化や効率化、そしてアウトソースの可否を判断できるのだ。上からの押しつけではなく、ボトムアップ型の「現場本位の改善」と言える。

また、注目を集めているAIやRPAを活用した業務改善のためには、業務の可視化や標準化が前提となる。業務とITのノウハウを持つBPO専門企業の業務コンサルティングサービスは、ITを活用した業務変革の入り口となるはずだ。