SAP S/4HANAへのコンバージョンは実行段階に
2018年3月の記事では、SAP S/4HANAへのコンバージョンが検討段階から試行段階に入っていることを紹介した。この1年で試行は進み、すでにコンバージョンは実行段階に入っている。今回は、実際のコンバージョン・プロジェクトでの影響分析の重要性と、それにより低減されるリスクについて解説したい。

S/4HANAは単なるテクニカルアップグレードではない

SAP ERPの保守サポートが終了する2025年まで、7年を切った。SAP S/4HANAへのコンバージョンを検討しているユーザー企業は多い。ベンダーへの引き合いもこの1年で非常に増えてきた。

コンバージョン時に注目すべきSAP S/4HANAの大きな変更点を見てみよう。

SAP S/4HANAのUIは、既存のSAP GUIも利用可能だが、HTML5ベースとなっている。データベースはSAP HANAのみを採用し、Oracle DBやSQL Serverは選択できない。さらに、テーブル構造が変更されているものが多く、マスタの見直しやUnicode対応が必要となる場合がある。得意先マスタと仕入先マスタが取引先マスタとして統合されているなどが一例だ。

これらの変更がシステムに及ぼす影響は大きい。データの処理が変わってくるためだ。

「今回のコンバージョンでは、従来のテクニカルアップグレードでは必要がなかった様々なタスクがプロジェクトの前後に必要となります」(SCSK ビジネスソリューション事業部門 AMO第一事業本部 ソリューション第二部 第二課長 増田 敬志)

たとえば、SAP S/4HANAへのコンバージョンでは、システム構成やデータベースの変更などから、データの不整合などによるエラーが発生することもある。そのため、データ整合性チェックなどにより、問題点を事前に見える化しておく必要があるのだ。

このように、今回のバージョンアップは単なるテクニカルアップグレードではないのだ。

SCSK ビジネスソリューション事業部門 AMO第一事業本部 ソリューション第二部 第二課長 増田 敬志

試行段階から、実行段階に

コアアプリケーションの領域では、前回のバージョンに比べてシステムの安定性が増した。また、SAPがコンバージョンの手順について指針を示したことで、プロジェクトの方針が立てやすくなった。

コンバージョンの事例が増えたことも大きいだろう。案件を通じてベンダー側にノウハウが蓄積され、プロジェクト経験を持ったエンジニアの体制も整いつつある。また、SAPにも知見が蓄積され、ドキュメントが整備されてきた。

2025年が近づくにつれて、移行のベストプラクティスやツールの確立はさらに進むと見込まれるが、同時に技術者の不足が心配される。この段階でコンバージョンに着手しなければ、十分なリソースを確保できない可能性もある。今後の大きな進化の中で基幹システムの基盤づくりに乗り遅れてしまうかもしれない。

「SAP ERPユーザー企業様には、コンバージョンによって、基幹システムを次のステージに進めるための基盤をつくりましょうとお話ししています。今コンバージョンをしておけば、今後の改修や拡張時に、大きな投資対効果が見込めるからです」(増田)

SAP S/4HANAは、今後さらにAIやクラウドを活用した新機能を拡充していく。たとえば、マッチング履歴を学習するAIを活用すれば、入金消込業務の自動化、消込対象候補を提示することによる業務の簡略化といった効率化が期待できる。コンバージョンを実施して基盤を整備しておくことで、いち早く業務効率化のための機能拡張に着手することができるのだ。

SAP S/4HANAへのコンバージョンを決断するタイミングを迎えていると言えるだろう。

実際にコンバージョンをどう進めるか

開発、検証、本番と環境を変えて、コンバージョンを実施する「3システムランドスケープ」の考え方は変わらない。しかし、その前に実施する影響分析が極めて重要になる、と増田は語る。

基本的に設計・実装フェーズから本番切替まではベンダーが主体的に進める。影響分析はユーザーとともにベンダーが進め、その結果を受けて共同でプロジェクトの方針を決定する。影響分析フェーズで実施するのは、SAP標準機能分析、アドオン影響分析、PoCの3つだ。

SAP標準機能分析では、SAP ERPで使用している標準機能のうち、SAP S/4HANAに移行した場合の変更点を洗い出して、見える化する。その上で、そのまま使えるのか、何らかの対応が必要なのかを一つひとつ判断していくのだ。

アドオン影響分析では、現在使用しているアドオン機能への影響を調査する。データベースをSAP HANAに変更しても、テーブルにはViewを介してアクセスできるため、基本的にはアドオン機能はそのまま動作する。ただし、テーブルの項目自体がなくなりアクセスできないなどの理由で、代替案を検討する場合がある。

影響分析において特に重要なのがPoCだ。PoCでは、クラウドに本番機のコピー環境を作成し、そこでSAP S/4HANAへのコンバージョンを試験的に実施する。実際にコンバージョンしたシステムで確認することで、データの不整合などで発生するエラーを事前に把握するのだ。

影響分析を実施すれば、コンバージョンのリスク以外にも、様々な役立つ情報が得られる。まず、本番移行時のダウンタイムが予測できる。これにより、年末年始、ゴールデンウィーク、通常の休日など、どのタイミングでシステム移行を実施するかの方針を立てられる。

また、実装フェーズ以降に発生する作業量を把握できることも大きなメリットだ。起こり得る修正や追加開発が把握できれば、QCDを担保できるプロジェクト計画が立てられるようになる。また、タスクを前倒しすることで、プロジェクトの短縮にもつなげられるだろう。

コンバージョンを成功させるには

標準的なコンバージョン・プロジェクトの期間は、おおむね9カ月が目安となる。ただし期間はプロジェクトの性格や状況に応じて変動する可能性がある。

たとえば、コンバージョン実施後に、SAP ERPが担ってきた業務の一部を別システムに移行するのであれば、該当システムを変更する期間と要員を考慮しなくてはならない。たとえば、人事管理のみを別システムに移行するなどのケースだ。

いずれにせよ、重要なのは影響分析フェーズでの事前確認だ。影響分析の精度がプロジェクトのリスクを低減し、成功を左右するからである。そこで鍵となるのが分析を実施するパートナーだ。

パートナーに求められるのは、コンバージョンの経験が多く、事例をノウハウとして蓄積していることである。過去の導入経験から、見落としがちな移行リスクを検知できることは大きなメリットだ。

また、基幹業務では、画面の動作が少し変わるだけでもエンドユーザーは不安を抱く。そのため、基幹業務システムの移行案件を数多く経験しており、細かな要件にも対応できることも肝要になるだろう。コンバージョン後の運用管理フェーズまで考慮しておくことは非常に重要なのだ。

SAP S/4HANAへのコンバージョンにあたっては、影響分析からプロジェクト実施までに必要な作業をパッケージで提供するサービスの利用も有益だ。たとえば、SCSKのSAP S/4HANA対応ソリューションである「Add-Value for Migration」を紹介しよう。

このサービスには、長年のシステム移行ノウハウがテンプレートとして組み込まれている。「Add-Value for Migration」とテストツールを組み合わせて利用すれば、システム変更点の見える化も容易だ。これはテスト工数やTCOの大幅な削減にもつながるだろう。

またSCSKは、コンバージョンだけではなく新規インストールにも対応している。影響分析の結果次第では、コンバージョン以外の選択や予算に合った対応など、個々の企業に最適な移行シナリオを提案できる。

実行段階に入ったSAP S/4HANAへのコンバージョン。システムのライフサイクルを考慮したコンバージョンの検討に向けて、まずはベンダーに具体的な話を聞いてみてはいかがだろう。

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