店長が現場でらくらくデータ分析。〝いなげや〟の地域密着マーケティング施策
首都圏で地域密着型のスーパーマーケットを展開する株式会社いなげやは、店舗で利用するための新しいデータ分析の仕組みを構築した。地域のお客様ニーズに応えた競争力のある店舗づくりのためにも、多忙な店長が店舗の実態を正しく簡単に把握することが必要だったからだ。今回は、いなげやがデータ分析により、どのように地域密着型の店舗づくりに取り組んでいるのかを探っていこう。

地域に密着したマーケティング施策のために

東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に約140店舗のスーパーマーケットをチェーン展開する株式会社いなげやは、地域に密着した「ヘルシーリビング&ソーシャルマーケットの実現」という経営目標を掲げ、魅力的な店舗づくりに取り組んできた。

これまでも全社単位でデータを分析し、分析結果をマーケティング戦略に反映してきたいなげやだが、近年、経営理念の実現には店舗ごとの特徴をつかんだマーケティング施策が必要になると考えるようになっていた。

その地域になくてはならない店舗の実現には、出店地域や立地、店舗規模や顧客属性などにより、求められる商品や売り場は変わってくるからである。全店舗一律では、いなげやの目指す地域のお客様ニーズに応える店舗の実現は難しいのだ。

もちろん、豊富な店舗経験を持つトップレベルの店長であれば、地域や店舗の特性を踏まえた売り場づくりも可能だろう。しかしすべての店長にそれができるわけではない。経験の浅い店長でも、地域のニーズに応える売り場づくりを可能にするにはどうすればいいのか。いなげやは、その答えを模索した。

トップレベルの店長は、売上データやその推移を頭に入れながら、日々売り場を見るなかで、店舗の状況を把握し、課題を発見、解決できる。そうしたトップレベルの店長の着眼点や課題解決の考え方を可視化し、仕組みとして提供できれば、すべての店長がトップレベルの店長と同じような視点で店舗を運営できるだろう。

そこで重要になるのが個店データとその分析である。ただし、現状、多くの小売店チェーンが保有する店舗ごとのデータは、販売実績であるPOSデータだ。その集計と分析には、時間とスキルが必要で、日々店舗運営に忙しく、また分析経験を持たない店長がマーケティングに活用するのは難しい。

またローコストオペレーションが求められる今日、店舗に分析専任のスタッフを置くわけにもいかない。店舗において効果的にデータを活用するには、店長が日々のルーティーン業務の中で、簡単に短時間で扱えるようなデータ分析ツールが必要だった。

データ分析ツールの開発にあたり、その指揮を執ったのは、いなげや 執行役員 情報システム本部長の藤野 敏広氏だ。藤野氏は、情報システム本部に着任する前、店舗運営、バイヤー、営業企画と食品スーパーチェーン全般の業務を経験し、現場と本部、両方の感覚を磨いてきた。その豊富な業務経験・ノウハウを、地域のお客様ニーズに応える店舗実現につなげようと考えたのだ。

株式会社いなげや 執行役員 情報システム本部長 藤野 敏広 氏

現場に確実に利用してもらうために
こだわったのがユーザインタフェース

いなげやがツールを構築するにあたり、パートナーとして選んだのはSCSKだった。

「マーケティング専門会社」や「小売のシステム構築に特化した企業」は、多くの場合、マーケティングに対して「マーケティングはこうあるべきだ」という既存の考え方を持っている。

いなげやが求めていたのは、既存の常識にとらわれず、ゼロベースで一緒に考えてくれるパートナーだ。そこで、EDIや基幹システムなど様々なシステムの構築とデータセンターの運用管理において、30年以上のパートナーシップを組んできたSCSKが選ばれた。

こうしていなげやとSCSKの二人三脚によるサービス開発が始まった。開発にあたり、もっともこだわったのが「店長にとっての実用性」だ。特に、データをどう可視化するかについては、あらゆる角度から議論した。

その結果、まず日々の店舗運営のなかでも利用可能で、かつ効果が期待できるようにするため、分析軸を「店舗」「顧客」「商品」の3つに絞ることにした。その上で、3つの軸でデータをどのように可視化するかを考えた。

重要なのは、「直観的かつ数クリックの簡単操作で店長が必要な情報のみを確認できる」ことだ。色々な角度から分析できる多機能なものにすると、分析作業そのものに時間がかかり、分析結果の理解度に応じてその後のアクションに差が出る。まずはデータを感覚で掴み、アクションにつなげることが大切だと考えたのだ。

プロトタイプが完成すると、トップレベルの店長に試用してもらい意見をもらい「忙しい日々の業務の中でも使う価値がある」と実感してもらえるまで改善を繰り返した。こうした作業を繰り返し、ようやく納得のいくユーザインタフェース、サービス機能にたどり着いた。

「スマくま・ショップリーダー」併買ビジュアライザーの画面イメージ

選択した商品が、何と一緒に買う傾向があるかを一目で把握。新たな組合せの発見にも貢献。

データの可視化で、より良い売り場づくりへ

こうして完成したのが、店長・店舗のための分析サービス「スマくま・ショップリーダー」(以下、スマくま)だ。現在いなげやでは、まず先行してベテラン店長の店舗やモデル店など10店舗にスマくまを導入し、店長が通常業務の流れのなかで利用している。

ツール導入による効果としてまずあげられるのが、「お客様がある商品を買うときに併せてどんな商品を買っているか=買い合わせ」を検証する「併買分析」だ。欲しいものを探して店内を歩き回るのは、お客様にストレスである。一緒に買われる傾向がある商品を近い場所に陳列したり、地域特性に応じた関連販売を提案したりすれば、売上アップや顧客満足度の向上につながる。

従来、関連販売による売り場づくりは店舗ごとに店長やスタッフの経験に頼る部分が大きかった。しかし、ツールを実際に使ってみたところ、これまで常識と思われてきた買い合わせが、実は違うと判明した例も出てきた。

ある店舗では、「うなぎ」と一緒に購入する漬物は「奈良漬け」が多いと考えていた。しかし、土用の丑の日に向けてうなぎと漬物の併買分析を実施すると、異なる事実が浮かび上がる。「浅漬け」の購入頻度の方が高かったのだ。

そこでその店舗では、売り場で「うなぎ」と「浅漬け」を併買しやすくした。これは、店長と店舗スタッフがデータに基づき売り場を改善した好例と言えるだろう。

今後、いなげやではスマくまを全店舗に展開していく予定だ。ただし、一斉に明日から全店舗に使ってくださいとバラまくわけではなく、ぜひ利用したいという意欲のある店舗から導入していくという。

そのために、10店舗での先行導入を通じて得られた「スマくまの有効な活用法」はマニュアルにまとめられ、先行導入で積み上げた成功事例・活用法を参考に、普及を促進する方針だ。

使い方に慣れてきた店舗は、独自の使い方を考え、実践するようになり、さらに成功事例・活用法も増えていくだろう。現場に浸透させ、ノウハウを蓄積することで、現場力アップや売上向上、顧客満足度向上に貢献する、店舗運営の基盤として、スマくまを進化させることを狙っているのだ。

一方で、SCSKが中心となって、いなげや以外の小売チェーンなどに対してもスマくまを外販し、小売業のデータ分析基盤としての活用を目指す動きも進められている。これは、スマくまに「いなげやの知見」だけでなく、他社の知見を反映させるためだ。

そして、その知見はいなげやにもフィードバックされる。このような循環を通じて、小売業全体の店舗づくりの在り方も進化するかもしれない。

オムニチャネル対応セールス&マーケティングサービス「スマくま・ショップリーダー」