対面が難しい環境下で変化が求められる営業スタイル
製薬企業と医療従事者をリモートでつなぐSFA

製薬企業と医療従事者をリモートでつなぐSFA
近年、法令などによる規制強化により、MR(医薬情報担当者)の業務には変化が求められてきた。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う医療機関への訪問制限などが影響し、営業スタイルも変わってきている。こうした中で、現場の要望から進化を続け、シェアを拡大しているMR向け営業支援ソリューションを見てみよう。

MRを取り巻く環境の変化

MR(医薬情報担当者)を取り巻く環境は、近年、厳しさを増している。その背景にあるのは、医師をはじめとする医療従事者との面会時間が年々短くなっていることだ。

「医療従事者は多忙ですから、元々、MRとの面談に多くの時間を割かない傾向がありました。『医師と話せたのは、医局からカンファレンスルームに移動するまでの数分だけだった』という体験談を聞いたこともあります。そこに追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの感染拡大です。多くの医療機関はMRの訪問を制限し、対面の機会はさらに少なくなりました」(SCSK 製造・通信システム事業部門 製造ソリューション事業本部 営業部 第三課 関口 健太郎)

法令などによるMRへの規制も強まる一方だ。例えばMRが使う営業資料は、PDFや動画の形で作成される。資料を改ざんしたり、医薬品の長所ばかりアピールして短所については触れなかったりする営業手法を防ぐためだ。そして、有効性や安全性に関するデータをきちんと盛り込むため、資料は膨大になりがちである。

「中には100~200ページに及ぶ資料もあります。1つの医薬品に対し数種類以上の医薬情報を用意するのが一般的ですから、大手製薬企業は2,000~2,500種類の資料を用意しているとも言われています。MRはこれら大量の資料を必要に応じて使い分けなくてはならないのです」(関口)

2019年には、厚生労働省より「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」(以下「製品ガイドライン」)が公表され、適用されることになった。この製品ガイドラインは、「効能・効果、用法・用量などの情報は承認された範囲内で提供する」「恣意(しい)的に提供情報を選択してはいけない」「どの医療従事者に、どの資料を使ってどのような情報を提供したか記録しなければならない」などを定めている。

「医薬品の長所を、できるだけ短時間で医療従事者に伝えたいというのが、MRの本音でしょう。しかし、規制が強化されたことで、資料の一部分だけをかいつまんで説明するやり方は難しくなりました。また、情報提供活動を記録しなければならないことも、MRにとって大きな負担となっています」(関口)

現場の要望で鍛えられた営業支援ツール

SCSKは2011年、MR向け営業支援ソリューション「MR2GO(エムアール・ツー・ゴー)」をリリースした。タブレット端末を利用したデジタルプレゼンテーションツール、営業現場の使い勝手にこだわったSFA(営業支援ツール)などで構成されるソリューションである。すでに国内大手製薬企業10数社で導入されている。

「国内のMRは約6万人と言われていますが、MR2GOのユーザー数は約2万。国内MRの3分の1に利用いただいています。最も評価されている点は、マニュアル不要で直感的に操作できるなどの使いやすさです。MRの皆さんに定期的に意見を聞き、バージョンアップも行っています。例えば、MRがタブレット端末で説明したログを自動でSFAに連携する機能は、『プレゼンでどの資料・どのページを使ったのか、活動日や医療従事者ごとに記録したい』『MRの日報作成を、できるだけ簡単にしたい』という要望から生まれました」(関口)

MR2GOには、事前にPDFや動画などのデータをタブレットにダウンロードし、複数の資料をページ単位で組み替える「Myストーリー」機能がある。モバイル通信が許可されていない病院でも、必要な資料に絞って効率的にプレゼンできる。また、必要な資料を素早く見つけるための検索機能も充実しており、通信が使える環境では、タブレット内の資料を自動的に更新可能だ。

MR2GOによるデジタルプレゼンテーション(MR2GO-DMV)の概要

対面が難しい環境でオンライン面談を促進

2020年、MR2GOに2つのサービスが追加された。1つ目は「MR2GO-RD(エムアール・ツー・ゴー アールディ)」だ。これはMR2GOを使って、MRが医療従事者とオンライン面談できるサービスである。

「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療従事者と直接対面することが難しくなっている反面、Zoomなどのツールが普及したことでオンライン面談への抵抗感は薄れています。今後、多くのMRに使っていただけると考えています」(関口)

MR2GO-RDによるオンライン面談サービスの特長は3つある。1つ目は、オンライン会議ツールのダウンロードが不要であること。MR2GO-RD上でMRがメールで招待すると、医療従事者はメールに記載されたURLをクリックするだけで、WEBブラウザ上でオンライン面談が可能となる。2つ目の特長は、会社によって承認された資料だけが表示されるため、MR独自の資料で説明するリスクを避けられること。そして3つ目は、オンライン面談の記録が自動的に残ることだ。

「製薬企業は、製品ガイドラインに反する営業活動を監視する『審査・監督委員会』を設置したり、定期的に販売情報提供活動をモニタリングしたりしています。MR2GO-RDに面談ログの記録機能を設けたのは、そうした情勢に対応するためです」(関口)

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う医療機関への訪問制限が強まる中、「製品ガイドライン」を遵守したオンライン面談へのニーズは、さらに高まるだろう。

MR2GO-RD オンライン面談の画面イメージ
(上)MR側のMR2GOアプリ画面
(下)医療従事者側のWEBブラウザ画面

そして、新たに追加されたもう1つのサービスが、スマートフォン上でのマイクロラーニングを可能にする「MR2GO-Learning(エムアール・ツー・ゴー ラーニング)」だ。MR2GO-Learning に登録されたMRのスマートフォンには、毎日決まった時間に数問の問題が届く。その日の学習を終えるまで繰り返し学習を促す通知が届くため、学ぶ習慣の定着につながる。

「MRには、新薬の有効性や安全性、医薬品に副作用が出た際の有効な対処法など、幅広い知識が求められます。しかし多忙なMRにまとまった時間の確保は難しい。また、経験の浅いMRにいきなり高度な知識を学ばせようとしても無理があります。そこで、隙間時間に問題を繰り返し解かせることで、『学習の習慣』を付け、MRの知識を底上げするのが、このソリューションの狙いです。ある製薬企業のご要望で開発したところ、とても好評だったため、今回新たなサービスとしてリリースしました」(関口)

出題者が、Excelフォーマットに問題と解答を記入してMR2GO-Learningにアップロードすれば出題できるため、MRのレベルやニーズに合わせた問題設定も容易だ。また、MRごとの学習実績を把握できるため、未学習者のフォローも可能になる。

音声認識やGPS搭載による営業スタイルの進化

MR2GOは、今後もさまざまなサービスの追加が予定されている。音声認識機能の搭載も、その1つだ。さまざまな業界で活用されている音声認識エンジン「AmiVoice(アミボイス)」を搭載することで、音声のテキスト化や声によるアプリ操作を実現予定だ。

「SiriやAmazon Alexaをイメージしていただけるとわかりやすいと思います。この機能があれば、資料や医師名の検索も楽になりますし、メモを取る際にも役立つでしょう」(関口)

GPS機能の搭載も進めているところだ。GPS情報と医療機関や医師の情報とを連携することで、面会ログが医師情報と紐づけされて日報に自動入力することが可能になる。また、活動予定のデータをもとに、MRに対して面談候補医師を提案することもできるだろう。

MR2GOは、製薬業界に特化したサービスだ。現場の要望を多数盛り込み、MRにとっての使いやすさを最優先することで、高い評価を得てきた。近年は、MRを取り巻く環境の急激な変化に伴って、オンライン面談機能やGPS機能など、MRの負担軽減に向けて進化を続けている。セキュリティに優れていることから、今後は製薬業界以外への展開も注目である。