2025年問題を「チャンス」に変える
SAP S/4HANA導入を、新たな価値につなげる

SAP S/4HANA導入を、新たな価値につなげる
2025年を目前に、SAP S/4HANAを導入する企業も増えてきた。一方で、企業の情報システム担当者からは、導入をためらう声も聞かれる。保守期限やリプレイス対応という守りの姿勢だけでは、投資に前向きな価値を見出しにくいのだ。では、本当にSAP S/4HANA導入には「守り」の側面しかないのだろうか。2019年7月開催の「SAP NOW Tokyo」のSCSK講演から探っていこう。

2025年問題は、リスクなのかチャンスなのか

基幹システムのターニングポイントとされる「2025年問題」には、2つの側面がある。1つは、経済産業省が指摘する「2025年までに複雑化、ブラックボックス化している既存システムを見極め、廃棄するもの、塩漬けにするものを仕分けし、必要なものは刷新してDXに取り組むべき」というもの。「これができなければ日本企業はグローバルでの競争力を失う」と問題提起している。

これとは別に、SAPユーザーはSAP ERPのサポートが2025年に終了するという「2025年問題」を抱えている。この問題では、新規導入・マイグレーション案件の大幅増加と、コンサルタント・エンジニアの圧倒的な不足が予測されている。SAP S/4HANA導入の決断がいま、迫られているのだ。

一方で、企業の情報システム担当者からは「導入をためらっている」という声が聞かれる。「守りの側面が大きいこと」に膨大なコストをかけていいのかと悩んでいるのだ。たしかに、リプレイス時期を迎え、保守期限に対応するためだけであれば、新たな付加価値は見いだしにくいだろう。

しかし本当に、SAP S/4HANAの導入に前向きな価値はないのだろうか。SCSK ビジネスソリューション事業部門 AMO第一事業本部 ソリューション第二部 第二課長 増田 敬志は、「SAP NOW Tokyo」の講演の中で「2025年問題はチャンスになり得る」と語った。新機能以外にも、SAP S/4HANA導入により次のビジネスを支える基盤固めとして3つの価値が見いだせるというのだ。では、それは何だろう。

増田はまず、SAP S/4HANAの導入を機会に「業務・データに精通した人材」の育成が可能になると示した。次世代を担うIT人材が不足する中、データの全体像を捉え、有効活用できる「次のステージに向けた人材」を育成するのだ。

次に、「DXへの対応」をあげた。すなわちSAP S/4HANAの高速インフラ基盤上でのデータの活用である。データ活用で実現したい課題は各社で異なるものの、そのために乗り越えるべきハードルは共通であり、それをSAP S/4HANAが促進するのだ。

最後に、クラウドへの段階的な移行を提案した。今後、企業のクラウド活用はより一層進むだろう。だが、基幹システムを一気にすべて移行するのは現実的ではない。その第1ステップとして、SAP S/4HANAの導入を捉えるのだ。

基幹システムが、次のステージに向かうには

では、次のステージに向けた人材育成とは、具体的にどのようなものだろう。講演では、「これまでのIT人材」と「これからのIT人材」を比較した説明がなされた。

これまでは「基幹システム構築・運用に精通した人材」が求められていた。これは、情報システムの構築・運用に、整合性と確実性が取れた状態で「確実性重視」のシステム維持が重要だったからだ。

しかしDX時代では、求められる人材が変わってくる。今後重要視されるのは、「データ活用を推進できる人材」である。スピード感をもって、ビジネスニーズに基づいたデータ活用が必要になるからだ。

つまり次世代のIT人材は、スピード重視で、試行錯誤しながらデータ活用する役割を担うことが期待されるのだ。こうした人材を育成するというミッションを現場が担う場合、SAP S/4HANAの導入はその絶好のチャンスとなり得る。

クラウドへの移行はどうだろう。これまでのオンプレミスで個別ERP型の基幹システムを第1世代とすれば、ここから「一気にすべてをクラウドに移行するのは難しい」と増田は指摘する。

全面的な移行には、システム的な準備、運用面での問題、「心理的なハードル=拒否反応」など、様々なハードルを伴うからだ。そのため、オンプレミスからクラウドへの移行にひとつクッションを置くのも良い手だろう。

このクッションとなるのが、「オンプレミス+クラウド」のハイブリッド型基幹システムだ。このシステムでは、インフラと特定のアプリケーションのみをクラウドに移行し、コア領域のアプリケーションはオンプレミスの形で自由度を持たせて利用できるようにする。

かつては、「基幹システムをクラウドに置くなどあり得ない」と思われていた。しかし現在、クラウド上の基幹システムは現実的なソリューションとして受け入れられつつある。そのファーストステップとして、ハイブリッド型のSAP S/4HANAを導入するのだ。

ハイブリッド型開発では、機能の外出しがより重要に

ハイブリッド型システムのコンセプトは以前からあった。では、具体的なシステムはどのようなものになるだろうか。講演では、典型的なシステム像が示された。

増田によれば、ハイブリッド型システムのクラウド領域には、人事給与、BI、経費精算、開発基盤など、スピード感や、制度改正に伴う変更がある機能が搭載されるという。インフラも、クラウドが基本となる。

一方、オンプレミス領域には、ERPやUIのほか、ワークフロー、連携基盤(EAI製品)といったコアの機能が載る。これは基本形であり、個々の企業の状況やニーズに応じて自由に変更できる。

またハイブリッド型のシステム開発では、オンプレミス型と同様に、アドオン機能が問題となる。そもそもオンプレミス型で、ERP内部にアドオンで機能を作りすぎたために、バージョンアップに対応できないこと、新機能を享受できないことが問題となってきた。

ハイブリッド型では、その問題がクローズアップされる。クラウドサービスでは、使える機能の範囲・設定が明確に定義されるからだ。オンプレミスで可能だった設定変更が難しくなれば、個別機能の外出しが求められるだろう。

ただし実際には、ERP内に作らないと動かない機能、PaaSで開発できない機能もある。そのため、ハイブリッド型システムで個別機能を実装する際の選択肢はいくつか考えられる。たとえば、「ERPのコアにつくる」「PaaS上に構築する」「SaaSで利用する」などだ。

現状、個々の機能をどのようにコンバートするかの議論も不足していると増田は言う。基準がないと、作り方がばらばらになり、きちんとしたソリューションとして提供できない。そこでSCSKでは、個別機能をPaaS上で作るためのフレームワークとツールを準備している。

UIやビジネスロジックの開発、データベースの持ち方、データベースと標準テーブルの連携などが定義されたフレームワークを使えば、個別機能を実装する際のチェックポイントが明確になる。つまり、SaaSを使うのか、PaaSで作るのか、コアに組み込むのかの方針を立てやすくなるのだ。

開発方法論として、フレームワーク化を進めている

クラウド時代に求められる、システム導入方法論とは

講演では、クラウド時代に求められるシステム開発のマインドセットにも触れられた。前述のように、使える範囲が明確に定義されたクラウドサービスでは、オンプレミスで可能なことができなくなる。設定変更やアドオンなどで対応する「Fit to Gap」の方針は採れないわけだ。

では、どうするのか。原則、標準機能に業務を合わせるというアプローチを採ることになる。これが「Fit to Standard」だ。

クラウド時代も、開発を主導するのはユーザー企業の情報システム部門とベンダーであることに変わりはない。「Fit to Standard」の実現には、情報システム部門とベンダーが自らの意識を変えなくてはならない。

「Fit to Standard」の方針を理解し、腹落ちした上で、要件定義を短いサイクルで進めることが両者に求められる。でなければ、DXを可能にするスピードは実現できない。実際、SCSKが海外で請けた、とあるSaaSによる基幹システムは、開発期間3ヶ月程度のスピード感で進められたそうだ。

こうしたスピード感を実現するため、SCSKは現在、クラウド時代の新たな導入方法論に取り組んでいるという。

2025年まで、あと6年を切った。将来のシステム像を見据える上で、「そもそもERPとは何か」をいま問い直したい。多くの企業は、「ERP=基幹システム」と考えている。

一方で、最近、ERPに「アナリティクスファースト」や「クラウド」など、別のキーワードを紐付けるベンダーも一部現れてきた。維持、安定性ではなく、別の新たな価値をERPに求めるべきだ、という考え方の現れだ。

「ERP=基幹システム」でないならば、ERPに従来とは異なる価値、新たな価値を求めるという考え方も可能だろう。そこから、次世代のERPのあり方が見えてくるのかもしれない。

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